誰を責めれば良い? 誰にあたれば良い? Life Is Wonderful?、27 信じられない出来事が確定してから、数十分後。 俺は一人、あの医師の待つ診察室にいた。 は、いない……。 「何で、はああなったんだ……?」 暗い瞳で、相手を見る。 この若い医師は、他の医者がもう諦める中、それでもを助けようとしていたのだと、さっき看護士の一人に聞いた。 誠実そうな、顔つきだ。 が助かっていたのなら、間違いなくこの医者で良かった、となんの衒いもなく言えただろう。 そう、助かって、いたのなら。 すると、気の毒そうに顔をしかめて、医師は言った。 「原因は、分かりません」 「分からないってっ!」 手術後のあの時とは違う、温度を感じさせない敬語に、苛々が募る。 医者のくせに分からないって何だよ!? 分からないなら……医者なんかやってんじゃねぇよ! 「落ち着いて下さい」 「落ち着けってのか!?この状況で『落ち着け』って!」 「死因の見当はついています。が、それは解剖しなければ特定する事ができません」 「解、剖…だと……?」 「そうです」 愛娘を切り刻ませろと、そう、言っているのか。 「……断る、っつったら?」 「死因の欄が『原因不明』になるだけです」 「……そう、か」 あまりの言葉に、憤る気力さえも奪われる。 が、いなくて良かった。 あの状態で今の一言を聞いたら、きっと心が壊れてしまっただろうから。 ぐったりと、俯いて、問う。 「なぁ、先生よ……」 「はい」 「見当って、何なんだ……?」 「……SIDSという病気をご存知ですか――」 一通りの説明を受けて。朝が来て。 俺はある病室の椅子に腰掛けていた。 小さくはあるがそこは個室で……。 俺の他には、ベッドで眠るしかいなかった。 「……」 何かが切れてしまったかのよう泣き叫び、我が子の所に行こうとしたは。 しかし、数人の看護士に抑えられ、鎮静剤を打たれた。 ほとんどパニックを起こしていたと言って良い。 それほどの取り乱しようだった。 だからこそ、俺は何も言えず、怒鳴る事も泣く事もなかった。 哀しかった。 苦しかったし、辛かった。 けれど、泣けなかったんだ。 「……」 ほんの少し前に一人で受けた説明を思い出して、俺は顔を覆う。 の、死因についてだ。 ――SIDS、という病気をご存知ですか。 ――SIDS? ――日本語で言えば、乳児突然死症候群、と言います。 細かい原因はいまだ分かってはいませんが、言葉の通り乳幼児が突如亡くなる、といった病気です。 ――どうして、がンなもんに……っ。 ――一般に考えられる要因は幾つかあります。例えば――…。 「俺は、お前達に何て言や良い……?」 ――SIDSは子どもが体温調節の上手くできない状況で起こりやすいと言われています。 「何て、言ったら良いんだよ……」 ――乳児の場合、暑いからといって服を脱ぐ事も布団を跳ね除ける事もできない。 ――その為、身体は信じられないほど高温になる……。 「俺が、を殺した、なんて……っ」 ――それが、お嬢さんの呼吸を止めたんです。 誰かを責めたくとも。 その罪は自分のものだった……。 ......to be continued
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