思い出すのは倖せの日々。
君のいた、温かな場所。






Life Is Wonderful?、24





その後の細かい事は、実を言うとほとんど覚えていない。
嬉しすぎて。嬉しすぎて。
驚くほど舞い上がってしまって。
例えて言うなら頭に花が咲き乱れてる感じ?
急に極寒から常春の国に来たみてぇな。
告白をした時、周りに人がいたかさえ、おぼろげだ。

ただ、が泣き笑い、みたいな表情カオをしていたのは思い出せる。
信じられないとでも言いたそうな。
でも、とても嬉しいっていう、透明な笑顔。


再開してから三ヶ月位で、俺達は友達ではなく恋人に。
呼び方も「悟浄さん」からただの「悟浄」に。
今までさんざん呼ばれてきた名前だけど、が躊躇いがちに言うと。
くすぐったいような、妙な気持ちになった。
本人はしばらく「年上を呼び捨てにするなんて」とか言って渋ってたけどな。


――やっぱり無理ですよー!
――なぁーんでよ?簡単じゃんv
――か、簡単じゃありません!
――簡単だって。ほら『』。
――……っ。
――……。
――止めて下さいっ!
――ちゃんと呼んで、しかも敬語じゃなくなったら止めるってv……。
――よ、要求増えてません!?
――良いから良いから〜。
――……ご。
――んー?
――……ご、じょう…さん。
――んんん〜?
――ご、じょう?

――…………。

――何で黙るんですか!折角頑張って……。
――……、もっかい。
――え?
――もっかい呼んで?
――……悟浄?
――……もっかい。
――悟浄。
――もーいっかい。
――悟浄……?

――あー、やべぇ。俺今すっげぇ倖せかも。



で、一応、八戒やらやらに付き合う事になったっていう報告はしてみたが。

『まぁ、ないとは思いますが……。泣かせちゃ駄目ですよ?』
『もっと甲斐性つけないと、私が引き裂くんでそこんとこ宜しく』

そんな祝福されてんだか、反対されてんだかよく分からない反応をされた。
元々、専門学校にだって、適当に資格が欲しくて行っていたような俺に甲斐性を求められたって困るが。
でも、二人の言葉に何故かやる気が起きたのは確かだった。
専門は去年卒業したから、勉強を頑張ろうと思った訳ではない。
ただ、八戒に誘われて始めた、奴の親戚がやってる酒場での仕事を、気がつけば一生懸命になってやりだしていた。
(とは行っても店主が寝たきりなので、実質の店長は八戒だ)

前の所謂「悪い友達」は俺を付き合いが悪くなったとか言ったりもしていたが、気にならなかった。
ちゃらんぽらんな俺でも、と釣り合うように少しでも努力したいと思う心はあったらしい。
彼女は否定するだろうが、付き合うなら貯金のある男の方がやっぱ良いだろうし。
あー、当時の俺ってほんと、のおかげですげぇ良い奴になってたんじゃねぇ?



――無理は、しないでね?



と一緒にいると、初めての体験が目白押しだった。
女の為に頑張ろうなんて今まで思った事もないし。
自分の彼女にどうやって接したら良いか悩んだ事もない。
健全な場所ばっかり行くのも、に逢う前の俺じゃ考えられなかった。
変わった、と言われた。
周りの連中に、お前は変わった、と。
なら、俺を変えたのはだ。
別に逢う前の自分が最悪だった、とまでは思っていないが。
が、色々とおかしな方向に行っていた俺をまっとうな道に導いてくれた。
それだけは変えようのない事実だった。


――うわぁ!凄い!!


倖せだった。


――どうしたら良いかな?悟浄はどう思う?


本当に。
今までの価値観を変えちまうくらいに。


――本当にありがとう!


それからは、色々なところに行った。
「おでかけ」ではなく「デート」としてだ。
近くで祭りがやってると言えば、二人で浴衣着て行って。
買い物にどっか行くと言っていたら、それについて行って。
二人手を繋いで、優しい時間を刻んだ。


――悟浄の手、大きいね。



そして、その内に片時も離れたくなくなって……。

若造で。
生活だって余裕がある訳でもないし。
今度社会人になるにとっては、邪魔かもしれないけれど。
格好つけてプロポーズしたりもした。
考えさせて欲しいとか言われたらどうする?とか恐怖を感じたし。
ガラにもなく自己嫌悪に陥ったりもした。
でも、が泣きながら頷いてくれた時は、もう死んでも良いとさえ思った。


――……嬉しいっ。


の家に挨拶行った時とか、本気で緊張したよな。そういえば。
あんなに馬鹿にしていた「娘さんを下さい」とかってお決まりの台詞の意味がようやく分かった。


――大好き。


どうにかこうにか結婚を承諾してもらって。
の父親が少し複雑そうな表情カオをしてたのが、やっぱ印象的だった)
色んな手続きしたりして。
最後の恋人期間を楽しんで……。
……まだまだ恋人でいたかったって気持ちはあった。
どうやったって、夫婦と付き合ってるのとじゃ重みが違う。
の人生に責任を持たなきゃならない。
けど、が自分のものだって、確かな証拠が欲しかったんだ。
例え、それが無機質で冷たい指輪ものだったとしても。

散々冷やかされた結婚生活は酷く順調だった。
八戒が家を出て行ってくれ、入れ替わりでのやってきた家は、なんだか明るくなった気さえした。
多少戸惑う事がない訳じゃなかったが、それでも。
が傍にいてくれる。
それだけで、へとへとになって帰ってきても笑みを浮かべられた。
結婚してから七ヶ月もすると、子どももできて。



――……赤ちゃん、できたみたいなの。



』と名づけられたその女の子は結婚生活二年目の八月に、元気一杯といった姿で生まれた。
産んだ直後のぐったりしていたが、その子を見て柔らかく微笑んだのを見て。
感動というものを知った。


――良かった。ちゃんと、元気に産んであげられて。


あまりに早い、時間の流れに。
俺はこんな倖せがずっと続いていくと妄信していた。
そんな事が、あるはずがなかったのに……。





君さえ笑っていてくれれば良かった。
その気持ちを、どうして忘れていたんだろう。






......to be continued