自分の気持ちは理解していた。
君の気持ちも理解していた。






Life Is Wonderful?、23





――告白された、とか?

我ながら随分と荒涼とした声だと思った。
冷たくて。
乾いてて。
ひび割れていたんじゃないかと、思う。

もし仮に告白されていたとしても、はまったく悪くないのに。
悪いものがあったとするならば、それは俺の迂闊さ以外の何物でもないのに。

八戒がに対して好意を持っていたのは知っていた。
でも、それはまるで後輩か妹に対する親愛のようなものだと信じてやまなかった。
決して恋愛感情なんかじゃないと。
しかも、あいつは俺と同じで、器用貧乏で。
俺のスキな女に。
俺の知らない所で、連絡を取ってるなんて思いもしなかったんだ。

そんな風に酷く嫌な気持ちで。
に冷たくあたった事に内心自己嫌悪に陥りながら。
帰ろうとした俺の服を必死に引き止める弱い力に、思わず足が止まる。


「待って、下さい」


見れば、今にも泣きそうなのを堪えているような、そんな表情カオで。


「……?」


自己嫌悪で目の前が暗くなる。
悪ぃ。
そんな表情カオ、させる気は、なかったんだ。
ただ。
心がざわついて。
思いついてしまった可能性を、口にしないではいられなくて。
口にしてしまったら。
もう穏やかに接する事はできなかった。
俺の中でいつのまにかこんなに、彼女への独占欲が膨らんでいたから。
……情けねぇ。
俺は彼氏かっつーの。


「嫌です」
「は?」


そして、そんな風になげやりな思考に埋没していた俺は、不意に聞こえてきたの言葉に反応ができなかった。


「そんな風にいなくなっちゃうのは、嫌」


彼女は俺の視線に耐えかねるように俯いて。
赤く色づいた顔を隠して。
その、今までにない様子に。
敬語の取れてしまった、その一言に。
俺はただ驚く事しかできなかった。

と、同時に、こっちの方をチラチラと見てきやがる客がいる事に気づいた。
見てんじゃねぇよ、と周りに睨みを利かせる。
俺は別に慣れてっから良いけどよ。
まぁ、日頃の行い悪ぃし?
でも。
はこんな注目浴びるのは好きじゃない。
こんな注目浴びる謂れもない。
彼女がさらしもんになってるようで、気分が悪ぃ。
だから、俺はもう一度さっきまで座っていた席に腰を下ろした。

すると、は何かを決心したように顔を上げた。


「八戒さんに告白なんて、されてない」


その姿は毅然として。


「されたとしても」


誰よりも。何よりも。



「私がスキなのは……っ」



綺麗、だった。







嗚呼、けれど。
そこまで言ったところで、はその綺麗な表情カオを歪ませて、言葉を飲み込んでしまった。
言葉が出てこなかったのかもしれないし、そうじゃないのかもしれない。

でも。
そんな表情カオで。
そんな声で。
そんな瞳をしていたら。
その先を言っているも同然だった。

あまりにも熱くて焦がれるほどに甘く切ない、俺を見つめるその瞳は。
今まで何人もの女共に向けられたものに酷く似ていて。
でも、その何十倍も俺の心を打った。

待って、くれよ。と言いかける。
今、何て言おうとした?と。
性質の悪い冗談じゃねぇの……?
嗚呼、頼む。
勘違いなら醒めないでくれ。


「……ごめんな、さい」


と、ア然とする俺に彼女は。


「なんだか、変なこと言っちゃって」


そう言って。


「何でもないんです。忘れて下さい」


微笑んだ。

違う。
違ぇって。
そう言おうとしたが、声が、言葉が。
あまりの事にひっこんじまっていた。

そして、は何の反応もできないでいる俺を見かねて、伝票を取った。


「今日は楽しかったです。本当にありがとうございました」


遠ざかる華奢な背中。
いつから、あの細い身体をこの腕の中に閉じ込めたいと思うようになっただろう。
間抜けのように席に着いたまま、俺は彼女を見送る。







そして、しばらくの間、呆然としていた俺は。
不意に現実に戻り。
席を立ち。
店を出て。
最初は早足で。
気がつけば駆け足で。
走って。
無様に。
追いかけて。


!」


愛しい人をこの腕に。


「ご、悟浄さん!?」


心底慌てたような、戸惑ったような声が聞こえるが。


…………あー、もう無理。限界
「あの、すみませんよく聞こえ……」


ンなもん知るか。



「悪い。俺、の事スキみたいだワ」





それがただの『つもり』だと知ったとき。
俺はどんな道化に見えている?






......to be continued