いつだって。 きっかけは些細な出来事。 Life Is Wonderful?、22 「――なんですよっ」 お店に着くまでの間と、着いてから。 私は延々と言葉を紡いでいた。 折角来たオシャレなお店の雰囲気も。 可愛らしい内装も楽しむ事ができなくて。 頭の中は真っ白。 口は止まらないのに、思考はすっかり停滞中。 ……あれ?私、結局何をどうしたら良いの?? 「このケーキすっごく美味しいですね!なんか、こう、見た目も可愛いですし。 この上に載ってる葉ってミントでしょうか?茶色ばっかりよりも緑の入ってる方がやっぱり……」 「……チャン」 「はい?何ですか悟浄さん?」 話をさえぎられて見れば、すっごく微妙な表情をした悟浄さんがいた。 自分でもよくしゃべるなーとは思っていたけれど、悟浄さんは余計にそう思ったらしい。 「八戒と何かあったワケ?」 「……何もないですよ?」 「チャン」 「何もないですって」 「嘘は駄目でしょ」 「嘘なんか……」 「吐いてません」と続けようとした私だったが、不意に思い出した言葉に、赤面した。 ――この意味、分かりますよね? いや、まさか。そんな。 きっと八戒さんがからかったに決まって……。 それは分かっているんだけれど。 どうしてもその台詞に顔が火照って。 意味を、考えると。 頭が混乱して。 目の前の、悟浄さんにどう接すれば良いのか。 分からなくて。 すると、赤く染まった頬を隠すように俯いた私に、突然、悟浄さんの冷たい声がかけられた。 「告白された、とか?」 「え……?」 初めて聞くその響きに、思わず顔を上げる。 「こく、はく……?」 「そ。違う?」 調子はいつもと同じなのに。 響きが、冷たい。 冷たくて、怖い。 何で、怒っているの? 何で、そんな怖い、瞳で……。 違うと、言いたくて。 でも、あまりの事に言葉が出てこない。 「邪魔して悪かったな。折角二人でデートだったっつーのに」 「あ……」 荒んだ言葉に、胸が締め付けられた。 でも、それ以上に。 「んじゃ、邪魔者は消えっから、また八戒呼んでくれよ」 立ち上がった悟浄さんの。 「じゃあ、な」 さっきまでとは打って変わった優しくて寂しそうな表情に。 心が凍る。 イヤダ。 ヤメテ。 イカナイデ。 チガウ。 ワ タ シ ハ 「悟浄さん!」 告白なんかされてない。 ただ。 心が。 乱れて。 「待って、下さい」 思わず、悟浄さんの服を掴んで。 軋む心に鞭を打って。 何処かに行ってしまいそうな彼を、引き止める。 「……?」 「嫌です」 「は?」 「そんな風にいなくなっちゃうのは、嫌」 周りの視線を集めそうになった為に、悟浄さんはまた向かいの席に腰を下ろした。 酷く驚いたような、表情で。 恥ずかしくて。 恥ずかしくて。 怖くて。 怖すぎて。 顔を上げられなかったけれど。 これだけは言いたい。 「八戒さんに告白なんて、されてない」 「…………っ」 これだけは、分かって欲しい。 「されたとしても、私がスキなのは……っ」 ――悟浄さんだから。 けれど。 その肝心の言葉は、喉の奥から飛び出す前に、飲み込んだ。 言ったら、終わってしまう。 この関係が。この想いが。 この、心地よい時間が。 それを思えば、もう言葉など出てこなくて。 馬鹿みたいに醜く表情を歪めながら、顔を背けた。 居たたまれなくて、二言三言、適当な言葉を置いて店を出る。 八戒さんの言葉に一瞬でも期待を抱いた自分が、途方もなく恥ずかしい。 勢いだけでどうにかなるだなんて、そんなものじゃないのは知っていたはずなのに。 直前の、目を見開いた悟浄さんの表情だけが、頭から離れなかった。 欲しかったのはきっかけと。 一歩を踏み出す『勇気』という名の勢い。 それを生かすことは適わないけれど。 ......to be continued
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