一人。 独り。 ヒトリ。 苦しかった。 Life Is Wonderful?、16 ずきん。 生まれて初めてできた、男友達(?)の悟浄さんと映画を観に行く約束をしていた前日の夕方。 明日に胸を躍らせて。 どんな服を着て行ったら良いかとか。 どんなお化粧をして行ったら良いかとか。 悟浄さんに迷惑を掛けないように、私は準備をしていた。 悟浄さんはとても格好良くて、優しいから迷惑はかけたくなかった。 ずきん。 初めて、男の人と何処かに遊びに行ったりした。 デートじゃないけど、でも楽しいおでかけで。 最初の頃はとても緊張していたけれど、最近は悟浄さんのおかげでとてもリラックスしていられるようになった。 下手をすると、見知らぬ女の人と何処かに行くのよりも気が楽かもしれない。 悟浄さんが私に気を使ってくれているのが分かるから、恐縮だけど同時に嬉しかった。 だから、また誘ってもらえて嬉しくて……。 少し、浮かれていたのかもしれない。 だから、体が発していたSOSに気づかなかった。 ずきん。 「…………?」 気づいた時はもう遅くて。 一瞬で、目の前が真っ白になる。 いきなりすぎて。 頭がついていけない。 足元がぐらついて、私の思考は停止した……。 ……………………。 …………………………………………。 ………………………………………………………………う。 目を開けると、目の前には見慣れたカーペットが広がっていた。 最初は自分の置かれた状況の把握ができない。 とりあえず、頭が痛い。重い。 気持ちが悪い。 左足が痛い。 力の入らない腕を叱咤しながら、体を起こしてみる。 ぐらり、と一瞬頭が傾いだけど、気のせいではないだろう。 「……3時?」 まとまらない思考の中で、外が暗いことを確認する。 ふと見た時計は丑三つ時すら、とっくに過ぎた真夜中を指していた。 「……寒い」 冷たく凍えた手で、同じように冷え切った身体をかき抱く。 自分はどうしてこんな所で寝ていたのだろう、と首を捻りかけて、自分が倒れたことを思い出した。 倒れた瞬間、頭こそテーブルにぶつからなかったようだけど、足をぶつけたようで。 見事に赤と青の混ざった痣ができていた。 けれど、それより何より、体が震える。 歯の根が合わない。 二の腕を自分でさすってみても、あまりの冷たさに体はまったく温まらない。 こんなところで一晩寝てたから、かな……? とにかく暖をとりたくて、目の前のベッドまで這うようにして潜り込む。 しかし、普段であればうっとりする安らぎを与えてくれるはずの布団は、悲しいくらい冷たく、よそよそしい。 小さく丸まってどうにか眠ろうと努めたが、がたがたと震える体は私の意思を完全に無視する。 手が冷たくて。 足が凍えて。 嗚呼、風邪でも引いたのかな、と思う。 起きて薬でも飲むべきなのは分かっていたけれど、そんな気は起きなかった。 大体、薬を飲むためには、何か食べなきゃいけない。 生憎、パンやら何やら、すぐ食べられそうな物はなかったハズ。 作る気力もない。 食べられる気がするわけでもない。 なら、眠らなきゃ、と思う。 せめて眠らなければ駄目だ。 しかし、幾ら待っても安息の眠りは訪れず、体中が寒いまま。 どうして、こうなったんだっけ。 咳はなかった。 くしゃみもしなかった。 熱は……どうだろう。測ってなかったから分からない。 頭は少し痛かったけれど、いつもの疲れからくる頭痛だと思って放ってしまった。 それが悪かったんだろう、と思う。 「寒い」 こんな時は自分が一人でここにいるということを、痛い程自覚する。 誰に知られることもなく、一人。 誰にも気づかれることなく、縮こまっている。 そんな自分の姿が滑稽で。 憐れで。 独りで。 情けなくて仕方がなかった。 「寒いよぅ……」 気づけば涙が溢れていた。 具合が悪くて泣き出すなんて、子どもがすることだと分かっている。 でも。 クルシイ。 ツライ。 イタイ。 キモチワルイ。 カナシイ。 カナシイ。 カナシイ。 ―――サミシイ。 お願い。 早く朝になって。 お願い。 誰か私を眠らせて。 お願い。 悪い夢なら醒めて。 お願い。 おねがい。 オネガイ。 「誰か……」 時間を刻む、時計の音がやけに耳障りだった。 苦しくて。 苦しくて仕方がないのに。 私は、ひとり。 ......to be continued
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