気付けば溜まった塵の中。 君を想うオレは馬鹿ですか? Life Is Wonderful?、3 『――でさぁ』 『――なの。おかしいでしょぉ?』 『――ねぇ、悟浄。聞いてるの?』 嗚呼、煩ぇな。 特にするコトもなくなってしまってから数日。 暇で暇で仕方がなくて。 とりあえず馴染みの女に電話をかけた。 けれど聞こえてくる甘ったるい声も話題も少しも面白くなく。寧ろ気に障る。 適当な相槌を返しながら、自分の目論見が外れたコトに内心舌打ちをする。 受話器を手にしたオレの視界に入るのは、見るも無残なゴミの山。 雑誌は崩れそうなほど積み上がり、ペットボトルやら空き缶やらが散乱する。 一人だった時は見慣れていた光景。 しかし、久しぶりに見る光景。 綺麗好きだったがいた時なんかじゃ考えられない荒れたリビング。 「んじゃあなー」 なんとなく区切りの良い所で電話を置いた。 しかし、視界の全体を支配する物体のあれこれを見ていると、流石に気分が悪くなってくる。 ……片付けなきゃなんねぇか? 面倒臭ぇ。 ずっと前は――八戒の野郎を置いてやってた時は、アイツがいつのまにか勝手に片付けてやがったからな。 結婚してからはがやってたし。 自分で掃除なんていつぶりだ? やり方なんざ覚えてねぇっつの。 適当にゴミを拾い集めて、そこらにあったビニール袋にぶち込んでいく。 そして、カップ麺の容器を手に取ってふと顔を上げると、の字が目に飛び込んできた。 「…………」 無言で手にしたのは、コルクボード。 今まで気付かなかったモノだ。 分かりやすいようにカラフルなペンで色づけされた紙が貼ってある。 それは、ゴミの曜日と分別法を書いた紙だった。 「……マメな女」 しかし、今はそれに感謝して曜日を確認する。 明日は燃えないゴミの日だった。 燃えないゴミは……『プラスチックとビニールを分けておく』? 何が違うんだよ、それ。 あー、回収日も違ぇ。明日はビニールの方か。 意外と細かい分別法に妙な感心を抱きながら、オレは適当に作業を続けた。 優しさに満ちた、その紙を握り締めて。 しばらくして、どうにかこうにか片付けた部屋を見渡す。 「ま、こんなもんか」 もっとも、片付いたのはリビングの半分にも満たないが。 カップ麺の汁を零したり。 ゴミ袋の置き場所が分からなくて右往左往したり。 何だかんだと手間取っている内に気がつけば日が沈みかけていた。 彩度が減ると、自然やる気がそがれる。 まだまだまだまだオレ自身の部屋が手付かずだというのに。 あんな女でも、役立っていたコトを今更に知った。 洗濯も料理も何もかんもまかせっきりだったかんな。 実際、楽だった。色々と。 オレが干渉を嫌うのを知ってか、「あれをしろこれをしろ」とは言わなかったし。 まぁ、多少は忠告めいたモノも言われたが。 あ〜、それで結婚したんだっけか? どうだったか思い出せない。 は今時珍しい位気の利いた女だった。 なるほど。付き合うとかじゃなくて一緒に生活するにはあんな風のが良いワ。 年中ベタベタされるのはうんざりだ。 甘ったるいもんを毎日食ってたら、気持ち悪くなんだろ? だったら、あんぐらいの微糖が丁度良い。 そんな風に考えて、彼女に対する自分の認識に笑いがこみあげてくる。 「ははっ。家政婦みてぇ」 いや、『みたい』ではなく実際、はオレにとっての家政婦だったのだろう。 大抵の言うコトをきく従順な。 今回、いなくなったのが信じられない位だ。 「……なーんでいなくなったのかねぇ」 この生活に対する不満だったら、とっくにあったはずなのに。 文句を言う機会は幾らでもあったはずなのに。 どうして今頃なのか。 どうして今更なのか。 さっぱり分からない。 きっかけは……何だ? と、オレは自身が此処に居た時よりも、彼女のコトを考えているコトに気付いた。 笑える。 笑えて、むかつく。 次第に苛々と負の感情が沸きあがり、煙草を口に銜えた。 何でこのオレ様がわざわざあんなダッセェ女のコト考えてやらなきゃいけないんだよ。 綺麗なお姉ちゃんとの会話もつまんねぇし。 あーあ。どっかにおもしれぇコト転がってないかね? 一人ゴチて、紫煙を吐き出した。 灰皿は、いつの間にか途中で押し潰した吸殻で満ち溢れていた。 君が消えてから何もかもがつまらない。 けれどそのコトに、オレはまだ気付かない。 ......to be continued
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