―――コレ、使って帰れよ。





Good natured person





突然の通り雨に、オレは僅かに眼を細めた。

よりによって今この時間に降るってーのは、イジメ?
そう、今まさに此処を出て何処に行くか、可愛い彼女と話し合った処だったってのによ。

がしかし向かいの席を窺ってみると、オレの予想とは裏腹に、 『可愛い彼女』ことは、雨が降り始めたのを見て酷く楽しそうな笑顔になっていた。
彼女が雨好きだった覚えはないので、思わず怪訝な表情になる。


チャン?なァーにか見つけたワケ??」

「見つけてはいないですよー?」
「じゃあ、何か思いついたとか?」
「残念、ハズレ。何だと思います?」


逆に聞かれて、普段使ってないオレの頭はフル回転だ。

こんな風に、イタズラッ子のように瞳を躍らせる彼女は、意外と子供っぽい処がある。
素直そーな顔してるくせに、天の邪鬼っつーかなんつーか。
少し付き合えば分かるコトだが、第一印象とのギャップが激しい人種だ。
いや、そんな処も可愛くて案外ツボなんだけどよ。
つーか、こんなに可愛くて三蔵と従兄妹ってのは間違ってると思う……。

しばらく考えた末に、結局何一つ思い浮かばず、 手を上げて降参の意を示すと、彼女は可笑しそうに笑い出した。


「雨の中見知らぬ初対面の女子に唯一の傘を押し付けて、しばらく学校を休んだ少年について想い出していただけですよv」


ったく……。


「悪ぅございましたねー……」


分かってねェな、このお嬢さんは。


「ゴジョさん、ほんとにお人好ですよね。その後、大風邪引いちゃってるし、結局十分位で雨止んじゃったし」


『見知らぬ女子』じゃなくて『』だから貸したかったんだっつの。
なんで、そういう処激ニブかね、このお嬢さんは。

密かに溜め息をつきつつ、少し言われたコトを想い返してみた。







何時からだったか、彼女のコトが気になり始めた。
クラスも学年も違う上に、関わり合いも全くなかったってのに、眼がを追っていた。
三蔵の従妹なのだと知ったのは、結構、後の方で……。
きっかけなんてドラマチックなモノはない。一目ぼれとかでもなかった。
ただ、なんとなく、何時の間にかスキになってた。
オレがいつまでも片想いなんてのをしてたなんて、格好つかなくて言わなかっただけだ。



―――案外そういうのが『赤い糸で結ばれてる』って奴だったりしてな。



まァ、とにかく!百戦錬磨のオレ様が目当ての娘に声を掛けられなかったってどーよ?
オレってそんなに常識わきまえた人間だっけか??

あの日……。
そう、あの日だ。
雨が止むのを待って帰ろうとしていた彼女を見つけた時は嬉しかったけど、緊張してまともに顔も見らんないまま傘を押し付けた。

絶対怪しいだろ。

話したコトもない奴に傘を貸してやる人間なんて、漫画だって今時いねェよ。
しかも、緊張ってガラじゃねェし?
しばらく自己嫌悪してたよなー。







「あ、拗ねた?」


ふと、感慨に耽っていたオレを、彼女と言葉と行動が現実に引き戻した。

……つーか、チャン。人が感傷に浸ってる時にほっぺた突っつかないの。


「それより、この後映画見に行くんだろ?お供しますよ、オ・ヒ・メ・サ・マv」


立ち上がりながら手を差し伸べると、は一瞬キョトンとしたが、すぐに自力で立ち上がった。


「……ウインクは止めて下さいっ」


口調は呆れているけれど、プイッと先を歩き始めた彼女の耳は少し赤い……。

初々しい反応してくれちゃってまァー。
……ああ、そうか。


―――彼女がこうだから惚れたのか。


奢ると言ったが頑なに拒否されたため、ワリカンという多少情けない状態で店を出る。
普段は押せばそれなりに男のメンツを尊重してくれる彼女だが、今日はもう駄目らしい。

少しは男の見栄ってのを張らしてくんないワケ??
やっぱり、こういう場合は男が奢って頼りがいをアピールするモンだと思うんだけど?

そう言っても、はそっぽを向いてご機嫌ナナメな態度を貫くのだった。
そして、彼女はバックから一本の折りたたみ傘を取り出した。が、


「……小さくない?」


「折り畳みなのだから当然だけど、コレだと二人入れないんじゃ……?」と、 そんな呆れた調子を含んだオレの声に彼女は、ムッとしながらイキオイ良く傘を開いた。


「折り畳みは小さいモノなんです!それに頭が濡れなきゃ良いんですよ!!」
「まァ、そりゃそうだけどよー……」
「ゴジョさんが持ってこないからです。嫌ならずぶ濡れてv」
「入れてクダサイ。お嬢様」

「お嬢様も止めましょうって……」


そう言って、は傘の中にオレも入れて歩き出した。
オレが傘なんて持ってないのはお見通しだったらしい。

オレを濡らさないように斜めに傾けてる処なんかが彼女らしいが、ソレだとオレが格好悪いんだって気付いてる?
彼女濡らして自分は無傷なんて、マジ堪えらんねェっつの。

無言で傘の柄を掴むと彼女は怪訝な表情カオをしていた。


「……斜めなんですけど?」


いや、さっきそっちもやってくれてたから。
ただでさえオレなんかと違って身体がそこまで丈夫じゃないんだから、風邪なんか引いたらどうすんの?
まァ、オレが付きっきりで看病するけどな……?

やっぱり苦しい思いはして欲しくないんだよ。


「んなコトないっしょ。それに『頭が濡れなきゃ良い』んだし?」
「差しにくいから離して下さいv」


素直じゃないって。
偶には迷惑ぐらい掛けてくれよ。


「オレが差すからチャンは手を離すのv」
「駄目!」
「なんで??」
「……ゴ、ゴジョ菌が移ったらどうしてくれるんですか!?」


彼女の物言いに、思わず噴き出す。
いつのまにやら病原菌扱いで、イイトコなんざ一個もありゃしないのだが、
その必死な様子が可愛くて可愛くて仕方がない。
おまけに、ワケの分からないバトルが少し続いても、結局傘はオレの手の中……。

納得のいっていないらしいは、負け惜しみのように「もう持ちませんっ」とそっぽを向いた。
あまりに好ましい反応に気を良くしたオレは彼女の肩を抱こうとしたが、手の甲を抓られて撃沈。


「いてててて……。あー、チャン照れ屋で可愛いー」
「ゴジョさん女たらしです……」
「えー?オレってば チャン一筋で一途だゼ?」
「……か、勝手に言ってて下さいっ」


いつも通りの告白にはいつも通りの可愛らしい反応を示してくれる。

そんなに赤面されるとこっちが恥ずかしくなるって知ってた?


「お、やっぱり照れてる照れてるv本当に可愛いなァー、チャンってばw」
「……からかってますね?」
「オレは何時だって本気だってvチャン愛してるw」
「……アメリカで『愛してる』って毎日言い続けて離婚になったっていうの知ってます?」
「マジ?」
「マジです。だから、いっつも言ってると信じてなんかあげませんv」


ふーん、じゃあさ―――……。



―――毎日じゃなかったら信じてくれるんだ?



優しく優しく耳元でそう囁くと、彼女は真っ赤になった頬を抑えて俯いてしまった。
少しやりすぎたかとも思うけれど、まぁ、いまさら後の祭り。
さて、どうやって彼女の機嫌を回復させようかと、首を傾げたオレだったが、 そんなオレに彼女は小さな小さな声で何かを呟いた。


「……〜……てますよ」
「何?もっかい言ってく……」
「やっぱ教えてあげない!自分で考えて下さい!!」


よく聞き取れなかったその言葉、ソレを彼女が言ってくれるのはもう少し後―――……。






―作者のつぶやき♪―

えー、誕生日夢を描いてる余裕が微塵もなかったが為に急遽引っ張り出した、初期作品の悟浄夢です。
あまりに拙すぎて、本気で羞恥心を刺激されます……。
色々足りなくてこっそり加筆修正。それほど酷かった。
多分、夢書いた順で行くと一ケタくらいですよ、これ。
元管理人仲間の煌さんに『甘くてヘタレていないゴジョ』を頼まれて書いたんですが。
ぶっちゃけ無理じゃね?とか思ってる自分がいたのもまた事実。
頑張ったのに、結局元管理人ズには『ほのぼの』と太鼓判を押されたしね。
ちなみにイメージ的にはトトロ的なカ○ちゃん。

以上、【む 結び目】で『Good natured person―お人好し―』でした。
ちなみに、ヒロインさんバージョンもありますから、興味のある方は下から行ってみて下さいね。