月明かり満ちる中を舞うは漆黒の、陰。 『彼』は音もなく、ある建物の闇の中に溶け込んだ―――…。 「相変わらず見事な手際だな、……。いや、この場合は『ウィル』と呼ぶべきか」 「……犯罪の手際を誉められるのも、微妙、ですね」 「悪いな。お前らにこんなコトやらせてよ」 「別に良いですよ。好き勝手にやってるんですから。……でも」 「……?」 「次の土曜日、また『ウィル』が出ますよ」 「……趣味の方、か」 「はい。つきましては一つ頼み事があるんですけど……」 外灯の光の中に出てきた少女は、その薄紅の唇を歪めた。 「結婚式に連れて行ってくれませんか?」 Will 「さんぞー!オレの場所ってあそこだよな!?」 件の土曜日、夕方。 玄奘 三蔵を筆頭とした『will特別対策本部』の面々はとある教会に来ていた。 厳かに今落ち始めた西日に照らされた聖堂、だがしかし、そんな神聖な雰囲気をぶち壊しにする少年が一人……。 「なァ、三蔵ってば!」 言わずと知れた孫 悟空、その人である。 最年少である彼は好奇心と使命感に瞳を輝かせており、その大声を注意するのも憚られる様子だったが。 「煩ェ!ちったァ静かにしてらんねェのか馬鹿猿がっ!」 三蔵には全く通じないようだ。 彼は隣りにいた八戒とウィル捕獲の最終確認を行っていた為に落としていた視線を悟空へと向け、 その鋭い眼光と共に粗悪な怒号を返した。 そんな彼に本部のメンバー――猪 八戒は苦笑を洩らし、まァまァと宥めに掛かる。 「三蔵、苛つくのは分かりますが、悟空にあたっちゃ可哀想ですよ」 「フン。誰があたった……」 三蔵は周りを見渡して舌打ちを一つし、丁度視線の先にある祭壇の上を見つめた。 其処にあったのは色取り取りの鮮やかなステンドグラスの色彩と、『沈黙の女神』と呼ばれる純白の硝子像……。 茜色に染まりながらも、その静謐な美しさは損なわれるコトがなかった。 と、三蔵がその幻想的な景色を見ていたその時、突然彼の肩に妙な重量が加わった。 「やっだ、三ちゃんってば女の子の日?」 「そのクソみたいな頭の中を一度ぶちまけてやろうか……」 ガチャリと米神に押し当てられた金属の筒に、本部最後のメンバーである沙 悟浄は手を上げた。 「冗談だっつの」 「オレは本気だがな……」 悟浄の手を振り払う三蔵の眼は思いっきり据わっていた。マジで。 此処で悟浄は己の愚を悟り、三蔵と微妙に距離を取りつつ、彼が今まで見ていた女神像に眼を向けた。 「いやー、イイ女だなー、オイ」 「苦しいですよ、悟浄」 「煩ェ。ンなモン百も承知だっつの……」 「なァ、三蔵。本当にウィルが盗むのってコレなのか??」 かなり微妙な話題転換を試みた悟浄。 どうやら、幸いにも悟空が話に乗ってきてくれたようだ。彼は女神像を指差しながら、背後の三蔵を振り返った。 そう、彼等が追っているのは今時古風にも予告状をつきつけて犯行に臨む怪盗『will』。 漆黒の革のジャケットと真紅のバンダナに、警察を嘲笑うかのような鮮やかな盗みのテクニック。 怪盗なんて馬鹿げた存在だと長年思っていた三蔵達も、『彼』のコトを現すにはその言葉しかないと知っている。 人をおちょくるその口調も、謎に塗れたその素顔も。 怪盗と呼ぶに相応しい……。 そして、今回、通算18回に及ぶ邂逅の舞台に選ばれたのが此処だった。
「でもさー、アレって『沈黙の女神』だろ?花嫁じゃねェじゃん」 「多分、今日此処で結婚式をするコトになってますから、ソレに引っ掛けたんでしょうね」 「アイツ、キザだかんなァー」 「……そういうコトだ」 八戒の言葉に、三蔵の眉間の皺は一本追加された。 彼を今不機嫌にしている理由の一番大きな原因は、正にその結婚式だからだ。 何処かの財閥の息子だか何だかの結婚式らしいが、当初の予定では昼間に行われるはずだった物が諸事情によって、 ウィルの犯行時間まで繰り越しになってしまったのである。 それも、その諸事情というのが新郎の腹痛だと言うから情けない……。 各界の著名人を招いている為、後日に延期という訳にはいかないし、かといってウィルがそんな事情に構うはずはない。 いや、それどころか派手好きな奴のコトだから、俄然やる気を出しそうである。 式に連れと来ていた上司である観世音菩薩に式の中止を掛け合ってみたが、圧力を掛けられたからと言って即行却下。 更に言ってしまえば、ウィルの噂を聞きつけたマスコミと近隣住民が教会の周辺に群がっている。 煩いウザイ邪魔臭い。 三拍子揃った今、三蔵の機嫌は過去最低を記録していた。 つまり、簡単に言ってしまえば、大幅に予定変更を余儀なくされて苛ついているのである。 「……来るなら来やがれっ」 三蔵は一人、そう吐き捨てた。 三蔵達警察が右往左往している頃、菩薩は連れの少女と二人で新婦の控え室を訪ねていた。 がしかし、彼女はふと「部下達に挨拶をしてやるのを忘れた」と言って踵を返し、部屋から離れていく。 少女はほんの少し深呼吸をして呼吸を整えると、軽くドアをノックした。 返事はない。 「失礼します……」 「っ!?」 ガチャリと耳障りな音を立てて部屋に入って来た見知らぬ彼女に、新婦は身を強張らせた。がしかし。 「またお会いしましたね、八百鼡さん!」 その容貌からは全く想像できない青年の声を聞くと、彼女の表情にみるみる安堵の笑みが広がった。 「おおっと。静かに、ね?」 すぐに立ち上がって何か言いたそうにしている新婦を手で制し、怪盗ウィルは人好きのしそうな子供の笑みを浮かべた。 そして、身振り大きく八百鼡の前で礼を取ると、『彼』はおどけて言い放った。 「ご協力、お願い致しますよ?依頼主さん」 八百鼡は小さく、だがしっかりとその言葉に頷いた。 そして、何事もないまま予告時間が迫った。 式はもうすぐクライマックスといった、頃合い。 新郎が目の前に立つ神父に、永遠の愛を誓うコトに異議がないという自分の意志を、沈黙でもって示した所である。 三蔵はタキシードに身を包み、ベンチの最前列を陣取っていた。 他の面々も、それぞれの配置についているはずだ。 あちこちに首は動かさず視線だけ走らせていく。 警察達の緊張は式が終わりに近づくにつれて高まっていった。 元々ウィルが式の序盤に仕掛けてくるとは誰も思っていなかったのだ。 奴が動くとしたら、指輪交換や誓いのキス……。盛り上がりに欠ける時に行動に移すような馬鹿じゃない。奴は……。 「では、この結婚に異議のある者は……」 ガシャーンッ! その瞬間、突然教会中の光が消え、けたたましい音を立てて、見事だったステンドグラスが割れた。 すると視界に飛び込んできたのは、僅かな光の中浮かび上がる、降り注ぐ色彩に混じった異端な漆黒……。 「あるに、決まってんだろ?」 テレビ局のヘリコプターが奏でる小さなプロペラ音をBGMに嘲笑を浮かべたウィルが、新郎と新婦の間に降り立った。 一拍の間を置いて、その場にいた客の一人が悲鳴をあげた。それはさながら試合開始のベルのように。 ―――奴は、もっと大馬鹿だ。 ウィルはまるで重力など自分には関係ないとでも言うような、軽い身のこなしで着地を成功させた。 そして、硝子片から我が身を庇っていた新郎に情け容赦のない蹴りを繰り出し、同じく屈んで頭を守っていた神父にぶち当てた。 「女の子を守るのは義務じゃねェの?お坊ちゃま」 呆気なく昇天した彼等を一瞥し、ウィルは目の前で驚きに眼を見開いている八百鼡に向かい合った。 すると、彼女は夫となる人間が蹴られたショックでか、ガクリとその場に崩れ落ちてしまった。どうやら気絶してしまったらしい。 いや、崩れ落ちたと言うと語弊が生じるだろう。 なにせ、彼女は崩れ落ちそうになった所をウィルに抱きかかえられたのだから。 「あっぶなー。怪我なんかさせたらシャレになってないって」 そう一人ごちると、ウィルは自分を睨みつけ拳銃を向けて立っている三蔵の方を見た。 「あ、ばんわー。今日は中々イケてる格好してんじゃないッスか、三蔵刑事」 「皮肉はいらん。その女を下ろせ」 「嫌だね。下ろした途端に麻酔乱射するんだろ?」 二人はしばし睨み合った。 「相変わらず派手好きらしいな……」 「何言ってんだよ?今回は花火打ち上げなかったゼ?」 「その女は一般市民だ……」 「『関係ないから放せ』って?そんなセリフ、アンタにゃ似合わなすぎるんじゃないか?」 「……その女がどうなろうと知ったコトじゃないがな。貴様のポリシーに反するんじゃないのか?女を盾にするなんざ」 ウィルは機嫌良くその言葉に笑った。 「そりゃ言えてる。女性には紳士的に接しなきゃな」 そして、急に素早い動作で何かを握り締めた腕を上げた。何かが発射される音が聞こえる。 「っ!悟空!!」 「任せろ!」 その瞬間、危険を察知した三蔵は、祭壇の中に隠れていた悟空へと声を張り上げた。 すると、すでに行動を開始していた悟空は直後ソレに応えながら、その場に躍り出す。 がしかし、祭壇に隠れていたからにはソレを出るロスが生じる。 一拍の隙をウィルは逃さなかった。 「お呼びじゃねェんだよっ!」 繰り出される回し蹴り。 まさか反撃されるとは思っていなかった悟空は思わず屈んでソレを避けてしまう。 と、間を置かずにウィルはその蹴りを踵落としに変更し、悟空の脳天に情け容赦のない一撃を入れた。 「がっは……」「……悟浄!八戒!!」 「ったく相変わらずでたらめな運動神経しやがって!」 だが、悟空の役割はあくまでウィルの注意を逸らすコト。 予定通り彼は時間を稼ぎ、悟浄と八戒がその間にウィルの両側へと回りこみ、強化型の捕獲網を投げ掛ける。 流石のウィルもそんなモノを投げ掛けられれば、逃げに転じざるを得ない。 三蔵はそう考え、麻酔銃の照準を彼に合わせた。すると。 「…………」 網が投げつけられた時、照準器の先の青年は笑っていた。 「っ!」 三蔵が眼を見開く中、ウィルは宙を舞う。 その手には、先程手を上げる際に天井にワイヤーを発射した、特殊すぎる銃が握られていた。 急いで麻酔を打ち込むが、案の定届くはずはない。 ウィルは吊り上った反動を利用して、八百鼡を抱えているコトをものともせず進入の際に割ったステンドグラスの淵に飛び移った。 「じゃあ、この通り『沈黙の花嫁』確かに頂いていくゼ?」 ウィルの楽勝ムードでまたもや盗み成功かと思われたその時、不意に彼のすぐ後ろが光で満ちた。 「オイオイ、ヘリまで用意してあんの?」 ウィルは僅かな動作で後ろを振り返り、小さく苦笑した。 けたたましく響くプロペラ音と風に、ソレは掻き消されてしまう……。 がしかし、教会自体が防音の為、通常よりはずっと話し易い状況だろう。 そして、三蔵は口の端を一度上げて声を張り上げた。 「チェックメイト……らしいな」 前には警官隊。後ろにはカメラを載せたテレビ局のヘリコプター。 恐らく、三蔵が事前に手回ししているだろうから、もし此処から出たとしてもライトを使って追跡されるに違いない。 ウィルは、銃を向け下から自分を見上げる三蔵を見つめた。 お互いに、麻酔銃が其処からは届かないコトを知っていた。 彼を捕まえるには、梯子か何かを用意しなければならないだろう。 そして、ウィルは不敵な笑みを浮かべて八百鼡を抱え直した。 「あー、こりゃマズイな」 「……一つ訊く。人間なんてどうして攫おうとした?」 その問いに、ウィルは開いている手をジャケットのポケットに突っ込み、黒く丸いサングラスを取り出した。 自然な動作でソレを掛け、彼は答える。 「おーけー。此処までこの俺様を追い詰めたご褒美だ。3つまでなら質問に答えてやるよ。 まず、『何故花嫁を攫おうとしたか』ってコトだけど……。理由は単純明快、この結婚が気に入らなかったからさ。 家の為だか何だか知らないけど、生まれつき声の出せない女を無理矢理妻にするってのはムカツクだろ?そうしようとした親も、新郎も。 だからぶち壊してやった、そんだけ。 で、2つ目の質問、何かある?」 「……」 「ないのー?恋人のちゃんに良い所見せたいんだろー??」 「なっ!?」 と、突然出された馴染みの深い少女の名前に三蔵は驚愕を示した。 「お、図星?」 「どうして奴の名前を……っ!」 「ヤダなー。自分のコト追っ掛けてくる相手の身辺調査なんて当然だろ? 俺さ、そのちゃんの妹でちゃんだっけ?あの子好みなんだーvやっぱりああいう可愛げのあるタイプが良いよな!」 「プライバシー侵害も罪状に加えてやる……」 シリアスな場面だというのに、いまだに余裕を見せるウィルに三蔵は苛立ちを募らせる。 もうすぐ捕まるというのに、何故こうまで平常を保っていられるのか判断しかねた。 そして、ウィルはしてやったりという表情で「質問はあと1つだけだ」と告げた。 「で、ラスト1問は何だ?」 何処までも人を馬鹿にした奴だ、と思う。 捕まえてしまえば取調べで幾らでも質問できるというのに、本当にあと一問しか答えないように錯覚させられる。 だが、どちらにせよ、ソレは三蔵に関係のないコトだった。 彼が訊きたいコトは、本当はたった一つなのだから……。 三蔵は覚悟を決め、逆光でよく見えないウィルを睨みつけた。 ―――お前は、一体何がしたいんだ? 「一昔前の義賊でも気取っているつもりか?慈善活動がしたいならボランティアにでも参加してれば良かっただろうが」 「…………」 「誰かの為に犯罪者になって、優越感に浸っているつもりか。反吐が出るんだよ……」 「……怪盗をする理由、か」 「根っからのクソ野郎じゃねェコトは認めてやる。だがな、気に入らねェんだよ」 「じゃあさ。腐りきった警察にでも入るべきだったって?」 ウィルは感情を窺わせない冷たい声色で語った。 「別に優越感なんていらねェよ。俺はただ気に入らないコトを好き勝手に壊してるだけだ。ただの我が侭って奴だな」 「…………」 「ソレが誰かの為なんて言って責任押し付ける気もない。俺は自分の為にしか動かない」 今度は三蔵が沈黙する番だった。 ―――所詮、アンタと俺は平行線。意見も思想も交わらない。理解なんて冗談じゃねェ。 刑事である三蔵と、怪盗であるウィルと。 「なら、俺が盗む理由なんて、『気に入らないから』で充分だろ?」 二人の間に一瞬の沈黙が落ちた。 そして、ウィルは再び不敵な笑みを浮かべ、もう一度ポケットから何かを取り出した。 其処から先はただ無言で、その何かを力一杯足元に叩きつけた。 「っ!?」 溢れ出したのは暗闇に慣れた者には強烈過ぎる閃光。 反射的にその場にいた誰もが眼を塞ぎ、次に開いた時には稀代の怪盗ウィルは花嫁と共に姿を消していた……。 「急いで外を警備している人達に連絡を!気絶した花嫁を背負っているからには目立つはずです!!」 ハッと我に返った八戒が現場の人々に指示を与えた。 だがしかし、本部のメンバーの中でソレに期待する者はいなかった。 こうして、今回の邂逅もウィルの逃走で幕を下ろした。 「さんぞー!またウィルに逃げられたんだってー?」 其処無しに明るい声が、機材の撤収作業を指示していた三蔵達の耳に届いた。 駆け寄ってきたのは、先程のウィルとの会話に出てきたとの姉妹だった。 「お疲れ様です、皆さん」 「ええ、みっともない所をお見せしてしまいましたね……」 「三蔵がだらしねェからなー」 「え、いや、そんなコトは……」 和やかな笑みと共に彼等を労う。 だが、ソレとは正反対には三蔵に意地の悪い笑顔を向けていた。 「今回も約束破りだな、三蔵!」 「、約束って何だ??」 「良い質問だ、悟空。玄奘 三蔵はあたしにウィルの素顔を見せると約束したのだ!」 ウィルは変装の名人であり、怪盗として出てくる時のあの青年の顔は素顔じゃないというのが、もっぱらの評判になっている。 は心底その怪盗の素顔を熟知しているのだが、ウィルが捕まえられないという自信からそんな約束を三蔵としたのだった。 何しろ、自分がそのウィルなのだから。 ウィルが、実はとという二人の少女だというコトを知っているのは、協力者であり依頼主の菩薩だけである。 彼女達は常に交互にウィルとなり捜査を撹乱し、尚且つアリバイ工作までしているのだ。 その仕事は警察で対処できない犯罪を、盗みという行為で派手に立ち回って暴くコト。 偶に今回のように菩薩に頼まれていない、個人的な盗みも行うが、ソレはインターネット等で気になる依頼が来た場合のみだ。 今回の盗みの筋書きはこうだ。 まず、菩薩に協力して貰ってが八百鼡の部屋へと潜入。 八百鼡に変装を施して、菩薩の連れの少女へと姿を変える。 直後やってきた菩薩に八百鼡を引き渡し、菩薩は「やっぱり気分が乗らなくなった」等と言って式を辞退、八百鼡を安全に外へと連れ出す。 もちろん、人が来るまでにが花嫁に変装。 あとは式を進めるだけだ。 そして、頃合いを見計らってウィルとなったが進入。気絶したフリをするを連れて教会を出る。 此処で、が花嫁に変装したコトが生きてくる。 即ち、ウィルが変装を解き八百鼡を変装させる時間を半減させたのである。 一瞬の隙をついて野次馬の群れの中に飛び込んだ二人は、得意の変装を解き、本来の姿へと戻る。 誰かを変装させるのと違い、コレは一瞬でできる。 すると、周りからはウィルが花嫁と共に消失したように見えるという寸法だ。 八百鼡が依頼主なのだから協力はして貰えるのだが、なにせ彼女はただの一般人。変装なんて離れ業をしかも一瞬でできるはずもない。 こうして、ウィルは見事八百鼡の意思とは関わり合いなく新郎立会いの元で結婚式をぶち壊すコトに成功した。 こうすれば消えた八百鼡の家が新郎の家から叱責を浴びるコトもないし、八百鼡も本当に愛しい人の元へ行ける訳だ。 「三蔵の嘘吐きィ〜♪」 そして、その結果に満足したは意気消沈しているであろう三蔵の所に来たのである。 ……多少、からかっている感は拭えないが。 すると、その様子に三蔵は青筋を立て、見事にハリセンを振りかぶった。そして。 スパーンッ! 「いってェー!!」 「煩ェ!この次は拝ましてやるから黙ってろ!!」 「殴るコトないじゃんか!三蔵のクセに!!」 「手前ェが喧しいからだろうが!」 「八つ当たりだ八つ当たり!可愛い彼女になんてコトしやがるんだ、この野郎」 「ほぅ。何処に可愛い何がいるって?」 「……三蔵が『可愛い』って言うのも似合わねェな☆」 「死ね」 いつも通りの夫婦漫才。 酷く心地好いモノだと、は感じている。 例えソレがいつ崩れてしまうか分からないモノだったとしても。 「さんぞ!」 「……あ?」 「次は頑張れ」 「……フン」 は思う。 平行線、ソレは決して交わらないけれど。 常に隣りにありたいの本音だったのではないかと―――…。
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