Whimsy







途切れ途切れにオルゴールの音が流れ込んでくる。
扉が僅かに開いているせいだろうか。

はその音で窓の外へ向けていた視線を、部屋の中に戻した。
ほとんどモノがない簡素というより殺風景な情景が彼女の瞳に映る。
がしかし、大して気にも止めずに、は扉に近づき此処を閉ざそうとした。

するとその時、彼女がノブに手を掛ける前に扉は不気味な軋みを上げて開かれた。


「あれ?起きてたんだ」


にっこりと悪意のない笑みを浮かべた『カミサマ』が其処に佇んでいた。







「ええ。悪いかしら?」
「ううん。そんなコトないよ」


がほんの少し後退あとずさると、彼は何の躊躇もなく足を踏み入れる。
そして、彼女のベッドに陣取ると自分の右側を指し示した。


「座りなよ」
「……」


特に抵抗する素振りもなく、は彼の隣りに腰掛けた。
そうする必要も意志もなかったからだ。この人物には抗うだけ無駄だと既に理解している。

そのまま、二人は黙り込んでいた。
は多少のタイミングを計り、彼はただそんな彼女に笑む。
やがて、何分経っただろうか。はタイミングが掴めなかった為に、唐突としか言い様のないタイミングで口を開いた。


「……あの子達、殺したのね」


『あの子達』というのは、金閣・銀閣という双子の兄弟。
もっとも、弟の方はこの男に姿を変えられてしまっていて、双子には見えないけれど。
オモチャ箱にいる銀閣のコトなど知らないはそう一人ごちた。

特に感慨のなさそうな声色で言うには、およそ似つかわしくない話題。
けれど、確認は取っておくべきだとは判断したのだ。
一応、共に暮らしたと言えないコトもないのだから。

すると、彼はクスリと笑って問い掛けた。


「残念?」
「少しね。貴方とあの子達の髪の色はとても素敵だったわ」


桃源郷で珍しいとされる髪の色を一度に何人も見るコト等、二度とないだろう。
特に、自分には。


「ああ、そういえば」
「……何?」
「近くに三蔵法師君がいたよ。金の髪だった」
「……ソレは驚きね」


素っ気無く話を続けるに、彼はやはり邪気のない笑顔を向ける。


「見に行きたい?」


はソレにどう答えようかと一瞬だけ迷い、だが迷っただけですぐに口を開いた。



―――囚われの私には無理ね。



この目の前にいる男が与えられなかった『三蔵』には興味がある。
けれど、この城にいる限りソレは望めないだろう。

そのきっぱりとした返答に、小気味好いモノを感じ彼は彼女の髪を一房掴んだ。


「あはは。じゃあお姫様だ」
「助けに来てくれる王子様はいない。だから、姫なんかじゃないわ」
「それなら、は何なの?」

 「籠の鳥」


彼とは決して視線を合わせずには答えた。
彼の瞳は自分を見ているようでまるで見ていない。
ソレが少しだけ怖かった。

すると、そんな彼女の様子に気付かないのか、彼は堪えきれないとでも言うように笑いだした。


「やっぱりは変だね」
「あら、どうして?」

「だって自分から籠に入ってる鳥は囚われなんかじゃないよ?」


その言葉には心の中で会話を返す。
「私が囚われているコトに変わりはない」と。


「私が変なら貴方は壊れているわ」


が何を言っても、彼は愉快そうに笑うのみ。


「じゃあ、が直してくれるの?」
「良いわよ」


ただし、貴方が直ったら私は此処から出て行く。それでも良い?

そう立ち上がって問えば、初めて彼の表情カオに疑問の色が覗いた。
不思議そうに自分を見上げてくる彼と絡まない視線は、彼が訪れた時のように窓の外を向いている。


「どうして?」
「壊れていない貴方になんて興味がないの」


私は貴方に囚われる。
自分の意志で、この場所に。


「あはは。本当には狂ってる」


その言葉にはようやく彼の顔を見た。
月明かりを背に浮かべたのは心からの笑みか嘲笑か。





―――それは神という名の安酒に酔っているからよ。





―作者のつぶやき♪―

はい、過去の倉庫からひっぱり出してきたカミサマ夢です。
オールキャラを謳うのであれば、少しでも多くのキャラとの恋愛模様を書こう!と試みていた時期の作品。
まぁ、相手が相手なので、こんな感じになっちゃったんですが。
ぶっちゃけ、最後のヒロインさんの台詞が書きたかっただけなんですが。
実は、この『佇む』って最初は八戒さんで書いてたお話があるんですよねぇ。
書き直してる内に、サイト消失のゴタゴタで消えちゃったんですけど。
んー。なんとなくは覚えてるんですけどねぇ。覚えてて、暇があったら復活するかもです。

以上、15の御題【5、佇む】で『Whimsy―粋狂スイキョウ―』でした!
ちなみに、暗くて良いのなら続きがあります。此方からどうぞ。