「ここが、ホグズミード……」 その日、ホグズミード駅にひとつの黒い影が現れた。 影はひとしきり辺りを見回すと、ついと一つの方向へ向けて迷いなく歩きだす。 今はまだ、本人はおろか、周囲の誰一人として、この影が波乱を巻き起こすことを知らない――。 父をたずねて何千里? 「……ここが、ホグワーツ」 「え?」 クィディッチの練習に行く道中の芝生で、今日の練習メニューを反芻していたその時。 不意に耳に届いた小さな声に気を引かれ、僕は後ろを振り返った。 特に何か予兆を感じたワケでもなんでもなく、ただ、そう、その声があんまり幼かったから。 どこか舌ったらずと言っても良いくらいの特徴的な声に振り返ざるをえなかった、というのが正しい。 そして、振り返った先には、やはり予想に違わず、ごくごく小さな女の子が立っていた。 多分、僕より3つか4つは下だと思う。そのくらい小柄で、幼い。 真っ黒い、墨で染め上げたみたいな髪と瞳が、なんとも似合う整った顔立ちの子だった。 「はじめまして」 「え、あ、はじめまして……?」 どこかで見たことある色な気がしたけど、誰だったっけ? 「ええと、君、誰?」 内心、必死にその色の持ち主を思い出そうとしていたけれど、とりあえずそう問いかけた。 だって、そんな小さな子がホグワーツに紛れ込んでいるのはおかしいじゃないか。 もしかして、誰かの兄弟で、母親とはぐれたのかもしれない。 そう思って、目線を合わせるようにする。 と、その子は不思議そうに目を瞬きながら口を開いた。 「みしらぬひとに、あんいになのってはいけないといわれています」 「へ?ええと、それは、その、たしかに……」 その、見た目にそぐわない口調に、思わず言葉に詰まる。 多分、ここにロンがいたらポカンと口を開けて凝視するくらい、しっかりしすぎている。 確かに、最近は物騒だから、こんな小さな子が知らない人を警戒するのは悪いことじゃない。 悪いことじゃないけどさぁ……。 が、しかし、そんな僕の戸惑いを何か勘違いしたのか、その子は深々と頭を下げてきた。 「でも、なのるときはじぶんからですね。しつれいしました。 わたしは、といいます。ほんみょうはながいので、みんなこうよびます」 「はぁ……そうなんだ」 「おにいさんのおなまえを、おしえていただいてよろしいですか?」 「ああ、僕はハリーだよ」 「ハリー……。しつれいですが、ハリー=ポッターでよろしいですか?」 「ああ、うん。そう」 「よくおはなしはうかがっています。よろしくです。ハリーとおよびしても?」 「いいよ。もちろん。僕もって呼んで良い?」 「おすきにおよびください」 同年代にもされたことのない丁寧な挨拶に、よっぽどしっかりしつけられたんだろうな、と思う。 (だって、僕の周りの人で、ファーストネームで呼んで良いか確認とる子なんて一人もいない。 いや、別に良いんだけど。でも、あんまり知らない人に呼びかけられると驚くんだよね) 僕と違って、すごく大切にされてきたんだろうな、とも。 で、そこで問題は、そんな子がどうしてこんなところに一人でいるのかっていう、ふりだしに戻るワケだ。 なので、僕はとりあえず、に案内が必要か訊いてみることにした。 「ところで、はホグワーツに何か用があって来たの?案内しようか?」 「いえ、それにはおよびません。みたところ、ハリーはほうきのれんしゅうにいくのでしょう?」 「まぁ、そうだけど。少しくらいなら時間は取れ――『ハリーッ!!』 がしかし、僕が請け合うその前に、鬼気迫った呼びかけが僕の声を遮った。 僕はそれなりに慣れてきたので良いけれど、はその拡声魔法で大きくされた声にビクリと大きく肩を震わせて驚いていた。 彼女は、怒号が聞こえてきた方――クィディッチ競技場と僕を交互に見て、不安そうに表情を歪める。 それは、自分のせいで僕に迷惑をかけたんじゃないか、と心配している表情で。 逆にもの凄く申し訳ない気持ちになった。 だって、悪いのはでもなんでもなく。 『ハリーっ!今日はスリザリンのせいで練習時間が限られているんだって何度言ったら分かるんだ!? どこにいるんだ、ハリー=ポッター!!いますぐに来い!!ハァリィイイィー!!』 クィディッチのことになると人格の変わるウッドだと思う。 「ハリー……よばれています」 「……そうだね。でも、事情を言えば多分大丈夫だから、は心配しなくて良いよ」 うん。多分、きっと、そうだと良いな? もちろんクィディッチは僕も凄く大切だと思ってるし、練習したいのは山々だけど。 でも、こんな小さな子を放っておくのは、どうかと思うんだ。 っていうか、鬼の形相をしたウッドの相手より、礼儀正しくて可愛いの相手の方が何万倍も良いに決まってる。 と、僕の提案には悩ましげに眉根を寄せたが、やがてそれは残念そうに首を振った。 「いいえ。わたしはだいじょうぶなので、あちらにいってください」 「でも……」 「ただ、こっそりおとうさまにあいにきただけなのです。だから、きにしないでくださいです。 ごめいわくをおかけしました。おはなしできてよかったです」 最後まで丁寧な仕草で頭を下げ、はそう言って城の方へと走って行った。 僕はその姿を途中まで見届けた後、競技場への踵を返そうとして――…… 「……今、『お父さま』って言った?」 今、この学校で父親と呼ばれそうな年齢である人物――嗚呼、そういえば、黒髪黒瞳って言ったら奴じゃないか、 を思い浮かべ、思わず箒を取り落とした。 「ん?」 ハーマイオニーと偶然出会い、明日提出の課題が終わっていないことを見事に見破られた僕。 そして、図書館へと連行される途中、大きな肖像画(住人不在)の前で首を捻っている女の子を見つけた。 「ええと。ホグワーツのおしろはひろいので、 えのなかのかたに、あんないをおねがいするといいのです。マダム ロスメルタがそういっていました」 「オイ、ハーマイオニーあそこあそこ」 「なに?逃げようったってそうは――あら?あの子……」 「でも、えのなかにひとがいないときは、どうするのでしょう?おうまさんにきけばよいのですか??」 「迷子かな。随分、小さな子だなぁ……」 「ロンの知ってる子じゃあ、ないわよね?」 「知ってる子だったらとっくに声をかけてるよ」 その姿は、とても一年生とは言えないほど小さく、一目で彼女が迷子であると直感した。 まさか、独りでホグワーツに迷い込むなんてことはないだろうから、きっと親とはぐれたんだろう。 実はそのまさかだとは思いもせずに、僕たちは顔を見合わせると、その子に声をかけることにしてみた。 「ねぇ、君。こんなところで一体どうしたんだい?」 「!」 「私たちはここの生徒なのだけれど、貴女は違うわよね?お母さまとはぐれたの??」 揃って、安心させるように微笑むと、その子は少し探るように瞳を細くした後、 やがて何か折り合いをつけたのか、こっくりと小さく頷いた。 「ここのせいとではないのです。でも、はぐれたわけでもないのです」 「?じゃあ、ここで待っているように言われたのかい??」 少し分かりづらい子どもの言葉を、整理するように言葉にしてみる。 がしかし、それに対して彼女は否定の言葉を口にした。 「ちがいます。ここにはおとうさまにあいに、ひとりできたのです」 「えぇ!?」 「ひとりでって、一体どうやって??ホグワーツはホグワーツ特急に乗らないと来れないでしょう?」 「もちろん、ホグワーツとっきゅうにのってきました。きっぷもひとりでかえました」 「まぁ……!こんな小さいのになんて偉いのかしら!」 女の子の武勇伝に心底感心するハーマイオニー。 僕も驚いたけれど、そこは褒めるべき点かどうか少し微妙だ。 一般常識として、こんな小さな子をひとりでそんな遠出させるのは、幾らなんでも危なすぎる。 普通はそんな許可が降りないと思うのだが、その子――というらしい、に確認してみると、 保護者の了解は取っているとのことだった。 「いんちょうせんせいは、いってらっしゃいといってくれました」 「?お母さまではなくて??」 「わたしにおかあさまはいないのです。おとうさまはおいそがしいので、こじいんでおせわになっています」 「……っ!ごめんなさい、私ったら無神経にっ!!」 「いいえ、きにしないでくださいです。わたしにはおとうさまがいるので、だいじょうぶなのです。 いつもたくさん、おようふくやおかしをおくってくださるのです」 「……っ!!」 感激のあまり、ハーマイオニーはに思いっきりハグをしていた。 はそんなハーマイオニーに苦笑しながらも、好きにさせている。 ……やれやれ。これじゃあ、どっちが年上か分からないじゃないか。 一人っ子だというハーマイオニーは、よっぽど礼儀正しくて小さいが気に入ったらしく、 それは嬉しそうに頭を撫でたり、案内を買って出たりしている。 勉強から頭が離れているその様子に、僕としては願ったり叶ったりなのだが。 手がかりもなしに探すとなると、それはそれで面倒だよなぁ。 「案内って言っても、その子の父親ってどこにいるんだよ? ホグワーツにこんな小さな子がいそうな男の先生なんて――っ!!!!」 の姿を眺めつつ、頭の中で父親を検索していたその時。 僕は、思い浮かべてはいけない人物を思い浮かべ、思わず戦慄した。 「どうしたの?ロン、そんなの、すこし考えれば――っ!!?」 「?」 そして、続けてハーマイオニーも。 その一気に血の気の失せた表情を見て、僕と同じことを考えたことは一目瞭然だった。 思わず二人でに背を向け、彼女に聞こえないように声のボリュームを限りなく小さくする。 「どどど、どうしよう!?ハーマイオニー!」 「どうしようって言われても!」 「だ、だって!君、知ってたのかい?アイツに隠し子がいたなんて!!」 「知るワケないでしょう!?それに、隠し子だなんて言ったら失礼よ!」 「隠し子じゃなかったらなんだって言うんだよ!っていうか、結婚してたのか!?嘘だろ!?」 「結婚していなくたって子どもはできます……って、今はそんな話をしてる場合じゃないでしょう!?」 突然に爆弾を手渡された気分だった。 恐る恐る二人で背後を振り返ると、は不思議そうな表情で、僕たちの話が終わるのを大人しく待っているようだ。 確かに、その髪と瞳の色は限りなく、どこかの誰かを彷彿とさせるけれど。 いや、でも、アイツの子どもって嘘だろ!?だって、陰険じゃないじゃないか!! 「……こうなったらもう、地下牢教室に連れて行くしかないと思うんだけど」 「えぇ!?僕、嫌だよ!っていうか、なんで教室なんだよ!?」 「なんでって、今の時間、あの人いつも教室で魔法薬の採点をしているじゃない」 「スネイプの行動パターンなんか僕が知ってるワケないだろ!?」 っていうか、なんで君は寧ろ知ってるんだよ!? 絶叫したい気分でハーマイオニーと小声で舌戦を繰り広げる。 スネイプに子どもがいておまけにその子が可愛いとか、なんだよ、その悪夢!? そして、その子どもを僕たちが送り届ける!?絶対にそれって何かの罰則じゃないか!! 頼むから、誰かこの現実を嘘だと言ってくれっ! と、その願いが天に通じたのかなんなのか、僕がハーマイオニーと今後の相談をしているその最中に。 「……ホグワーツのがくせいさんはいそがしいのですね。わたしはおじゃまなようです」 僕たちの背中に、はぺこりとひとつお辞儀をしていなくなっていたりするのだった。 「おさわがせしました。わたしはだいじょうぶですので、どうぞデートをつづけてください」 それは、二人で大階段に糞爆弾を使った悪戯を仕掛けている時のことだった。 「ジョージ、そこはもうちょっと右に……」 「いけません!」 「「は?」」 ボスッ 僕は腰の辺りに何か小さな塊によってタックルを喰らった。 「いけませんいけません!ひとさまにごめいわくをおかけしては、いけないのです!!」 「……何だ?この子??」 それは、酷く小柄で、怖ろしいほど整った顔立ちの、見知らぬ女の子だった。 ジニーよりよっぽど小さいその姿は、なんだか小動物を相手にしてる気分にさせられる。 かなり軽い衝撃だったので、特にダメージはなかったのだが、 いきなりチビっ子に攻撃されたという事実に、目を白黒とさせてしまう。 がしかし、そのチビっ子の言葉に、悪戯を止められているのだということに気が付き、なんとも微妙な表情になってしまった。 「フレッド、僕たちはどうやらかなり情けない状況にあるらしいぞ?」 「……そうらしいな」 見れば、ジョージも同じような表情をしていた。 こんなジニーよりも小さな子に悪事(?)を止められるなんて、それはもう格好悪い。 そして、僕は未だに腰のところで「いけませんいけません」と連呼している女の子を引きはがし、 苦笑しながらそのつやつやの頭を撫でた。 「ごめんごめん。もうやらないよ。さっきまでのはただのジョークさ」 「そうそう。糞爆弾を仕掛けて、ある段を踏んだら爆発させようとなんて、本気でするはずがないじゃないか」 「……そうだったのですか?」 女の子の、完全に納得のいっていないらしい視線に、とびっきりの笑顔で頷く。 すると、彼女はとりあえず疑り深い瞳を引っ込めて、「それはしつれいしました」と頭を下げた。 今時、随分礼儀正しい子だなぁ、とその様子に感心してしまう。 来ている服も、質素ではあるけれど、丈夫で着心地が良さそうなそれだ。 きっと、良いところの家の子なのだろう。 「いいさ。気にしてないから」 「まぁ、紛らわしいこと言ってた僕たちも悪いしな。お互いさまってことで」 「そうですか?」 よしよしと、なおを頭を撫でていると、少女は僕たちの言葉にようやく顔を上げた。 若干涙目になっているその様子に、これは悪いことをしたかなぁ、と珍しくも罪悪感が首をもたげる。 まぁ、この子にしてみれば、目の前で爆弾を仕掛けてる、なんて話を聞いたり見たりしたら、さぞかし驚いたことだろう。 なので、思いっきり本気だったことなんて過去に追いやり、僕たちはあっさりとその悪戯計画を破棄した。 と、女の子はその言葉に安心したらしく、それは整った顔を可愛らしく綻ばせて。 「……!」 「「?」」 「おなじかおがふたりです!?」 「「ぶふっ!」」 ようやく僕たちが双子であることに対して、驚いていた。 さっきまで大事そうに抱えていた、丸めた羊皮紙を取り落とすほどのオーバーリアクションである。 僕たちとしては、そのワンテンポどころかツーテンポ、スリーテンポ遅れた反応に、思わず噴き出すことしかできない。 いや、まぁ、こんな小さかったら、双子を見るのは初めてってこともあるかもしれないけどさぁっ! あんまりその驚きっぷりが面白かったので、ジョージと二人でにやにやと様子を窺っていると、 女の子は一気に顔色を悪くしながら、わたわたと僕の顔を軽く叩き始めた。 「どうしましょうです!ドッペルゲンガーです!きけんですあぶないです! あったらいけないのです!どっちがほんものですか!!?」 「「いや、僕は本物だけど」」 「!!ドッペルゲンガーがわたしをだまそうとしてます!うそつきです!」 示し合わせたワケではないけれど、声が揃ってしまったことによって、女の子は軽いパニックを起こしたらしい。 見ているだけで面白……いや、可哀想なくらい僕たちを警戒して、じりじりと後退していく。 嗚呼、なんていうか……このままからかい倒して遊びたい? ふと、横目で自身の片割れに視線を送ってみる。 すると、それはそれは愉しそうな目と目が合った。合ってしまった。 「「いやいや、嘘じゃないよ」」 うん。このまま悪戯決定。 だって可愛いもん。 「うそつきです!うそつきがいます!!おとうさまにたいじしてもらうのです!!」 「「お父さまって??」」 「おとうさまはおとうさまです!えらいのです!すごいのです! ホグワーツでせいとをまもっているのです!ドッペルゲンガーをたいじしてもらうのです!!」 「オイ、フレッド。そんな素敵なお父さまって、心当たりあるか?」 「いや、そんなお父さまに心当たりはないな。ジョージは?」 「あるワケないじゃないか」 なんとはなしに、この黒髪黒瞳にとある陰険教授の顔が浮かんではいたが、 チビっ子の説明に、あいつだけはないな、っと爽やかに僕たちはその人物をスルーする。 例えそうだったとしても、スルーする。 まぁ、この子には悪いが、普段が普段なのだから、この位の意趣返しはさせてもらっても良いだろう。 「僕たちが知っているのは、陰険で根暗で、生徒をいじめるような『お父さま』さ」 「!!!!」 「そうそう、僕たちみたいな善良なグリフィンドール生を捉まえては、やれ課題だの罰則だの減点だのをしていくんだよな」 「……ち、ちがっ!おとうさまは、そんなこと……っ」 「本当に陰険だよなぁ。この前なんかネビルを半泣きにさせてたぜ?」 「可哀想になぁ。ただ廊下ですれ違っただけなのに減点だったもんなぁ」 「〜〜〜〜っ!」 如何に、この子の父親が人として色々間違っているかを懇々と諭していると、 やがて、彼女の臨界点を超えてしまったのだろう。 その大きく澄んだ瞳からはぼろぼろと大粒の涙がこぼれ出してしまった。 「う……ぇ……」 「「あ」」 「お、おとうさまは、そんな、こと、しな……っ」 まずいと思った時には、時すでに遅く。 「うあぁあぁん!!」 女の子は盛大に泣き始めてしまっていた。 これは……もしかしてもしかすると、さっき以上に情けない事態に陥ってやしないだろうか。 流石に、泣かせる気なんてものはなかったので、ジョージと二人で慌てて宥めようとしてみる。 「ああ、悪かったよ!しないしない。お父さまはそんなことしないよな、な!」 「そうそう、ちょっと君があんまり可愛かったもんだから意地悪したくなっちゃっただけなんだよ」 「うぇええぇぇー!!」 「だから、あの……」 「うぇえぇぇ、うぁあああぁぁん!!」 「その……あー、もう泣かないでくれよぉ……」 がしかし、奮闘空しく、一度ついてしまった火は消えないように、チビっ子は泣き続けた。 その内に、周りの肖像画たちから指を差して批判までされ始めて、どうしたら良いものかと冷や汗が出てくる。 試しに、ジョージが『高い高い』やら『いないいないばあ』やらをやってみたが、 「うぁあぁぁぁああああん!ばけものにたべられますぅぅううー!!」 完全に逆効果だった。 (この子の中ではもう、僕たちはドッペルゲンガー確定らしい) おかしいな、ジニーがこのくらいの時はこれで機嫌直ったのに……。 そして、この騒動にいい加減周囲も気づいたらしく、 その内に僕たちの周りには生徒たちが続々と集まってきてしまった。 今のところ、そこに黒づくめの教授殿の姿は見受けられないが、見られたらと思うと、流石の僕たちも表情が引き攣る。 と、流石にお手上げになってきたその時、 「ジョージ!貴方たちって人はっ!!」 「フレッドも、一体何やってるんだよ!?」 「、大丈夫!?」 人ごみを掻き分け、我らがロニー坊やがハリーたちと連れ立ってやってきた。 と、その姿にピンとくるものを感じ、それはもう引き攣った笑顔のまま、ロンとハリーの肩をがっしり掴む。 「いや、この子、双子を見たことがなかったらしくて、混乱させちゃってさ」 「そうそう。僕たちがもう何を言っても聞く耳持ってくれなくて」 「ここはチビっ子はチビっ子同士、っていうことで」 「「後は宜しくっ!!」」 「んなっ!?」とあんぐり間抜け面を晒しているロンに、女の子が取り落とした羊皮紙を押し付け、 僕とジョージは脱兎のごとくその混乱の場から逃走した。 無責任にも、事態を収拾することもなく逃げ出した双子に、僕とロンは茫然と見送ることしかできなかった。 「……っ!なんって人たちなの!?」 ハーマイオニーだけは一人、いち早く立ち直って憤然と抗議していたが、 当人たちはもうとっくのこの場をあとにしている。 残されたのは、事態がよく分かっていないギャラリーと僕たち。それと、 「うぁああぁ……うっ……ふっ!うえ……っ!」 泣き過ぎて過呼吸気味になっているだった。 そこにさっきまでの冷静で礼儀正しい姿はなく、年相応の、弱々しい女の子がいるだけだ。 その苦しそうな姿に、まずは彼女を落ち着けることが先決だと思い、 僕はの背中をとんとんとリズミカルに叩く。 「、まずは落ち着こう。ね?大丈夫、もう二人ともいないよ」 「う、うぇ…ひっ……ふっ……ハ、リー……?」 「何があったのかはちょっと分からないけど、ごめんね。 あの二人もそこまで悪気があったワケじゃないと思うんだ。ちょっと悪ふざけがすぎちゃっただけなんだよ」 なんで、弟のロンじゃなくて僕がフォローしているのか若干首を傾げつつも、 まぁ、いつもお世話になっているし、ということであまり気にしないことにする。 そして、逢って数十分とはいえ、知っている人間がやって来たことで少し落ち着いたらしいは、 一生懸命、涙を止めようとごしごし目を擦り始めた。 なんとなくだけれど、普段はこんな風に泣いたりしないのだろう、その仕草はどこかぎこちなくて乱暴だ。 すると、それを見かねてハーマイオニーがすかさずハンカチを差し出す。 「嗚呼、、駄目よ!擦ったら赤くなっちゃうわ」 「……っく、で、も……ひっく、ご、めい、わく、を……」 「チビはそんなこと気にしなくて良いんだよ!ホラ、深呼吸して!」 「……ひっく……ふっ……」 やがて、ロンも加わって僕たちは総出でを慰め始めた。 周りに集まっていた人たちは、適当に迷子だってことを伝えて散ってもらうとして。 早く泣きやませないと。 こんなところ、スネイプに見つかったりなんかしたら――…… 「そこで何をしているのかね、ポッター」 「「「!!」」」 がしかし、やっぱりというかなんというか。 こんな時にばっかりタイミング良く、背後からねっとりと粘着質な声が聞こえてきた。 (ちなみに、ロンの方からは「ああぁぁあ」なんて、酷く情けない呻きが聞こえてくる) その途端に、遠巻きに見守っていた生徒たちがまるで蜘蛛の子を散らしたようにいなくなっていく様は、いっそ見事だ。 振り返りたくなんてなかったけれど、名指しで呼ばれて反応しないワケにもいかない。 仕方がなしに、声のした方へ向き直ると、想像通り、意地の悪い笑みを浮かべたスネイプが立っていた。 「おやおや。まさかかの有名なハリー=ポッターが陰湿ないじめをしている現場に出くわそうとは。 さて、私は幸いにも君の寮の寮監ではないのだが、卑劣な行為を黙認するワケにもいきませんなぁ?」 「…………!」 には気付いていないらしく、スネイプの嫌味は今日も絶好調だった。 普段であれば、その嫌味に表情を歪めたり気分を害したりするだけなのだが、今日はいつもと違ってがいる。 だから、僕は慌ててスネイプにその嫌味を止めるようアイコンタクトを試みたが、 「そんな情けない表情をしたところで、見逃してもらえるなどと思うなよ、ポッター」 「……違うっ!」 全っっ然、通じない。 考えてみれば、スネイプと無言で意思疎通ができたら気持ち悪いだけなのだが、 それでも、僕はこの小さな女の子に、こんな残酷な現実(お父さま=陰険教授)を突きつけることはできなかったのだ。 がしかし、そんな僕の想いにスネイプが気づくはずもなく、それは愉しそうに僕の背後で宥められているへと視線を移す。 そして、漆黒の瞳が、相見えた。 「「…………」」 嗚呼、愛娘がこっそり逢いに来ていて、おまけに僕に泣かされたなんて思われたら……っ! 今年のクィディッチ杯はおしまいかと、真っ白になった頭の隅で思っていると。 「一体、どこの子どもを連れ込んだのかね、ポッター」 「「「……は?」」」 「いじめだけでなく、女児誘拐とは……ホグワーツ始まって以来の醜聞だな」 思いがけないその言葉に、僕だけでなくハーマイオニーたちも間の抜けた声を上げた。 それは、まるでのことを知らないかのようで。 そして、その対応にまるで反応を示さないも、見知らぬ他人を見るようで。 「スネイプの子じゃ……ない!?」 僕らの心情を、唯一人ロンが代弁してくれた。 がしかし、その言葉はスネイプにとってはかなり心外なセリフだったらしく、 今まで見た中で一番凶悪で憎々しげな表情で、ロンは睨みつけられた。 「ウィーズリー……」 「ひっ!」 「まさかとは思うが、この子どもが吾輩の娘だなどと血迷った勘違いをしたのではないだろうな。 冗談ではない。一体何を以てしてそんな考えを持ったのかは知らないが、無礼な態度にグリフィンドールから5点減点」 「……そんなっ!!」 冗談じゃない、なんていうのは僕たちのセリフだけれど、スネイプはそんなことお構いなしだ。 心なし嬉々として寮点を減らしていると、そんなスネイプの姿を見て、ようやく落ち着いたらしいは悩ましげに首を傾げていた。 「これは……せいといじめというやつでしょうか。それとも、ごしどうなのでしょうか。 ごしどうならおとめしてはいけません。でも、いじめならとめないと……」 どこからどう見てもいじめだと思うが、にはそこまでの区別がつかなかったらしい。 もう、このワケの分からない現状にどうしたら良いのか分からず、ハーマイオニーを目を見交わす。 すると、そんな時、僕はハーマイオニーごしに、こちらへ悠然と歩いてくるダンブルドアの姿を見つけた。 「ふぉっふぉっふぉ……どうも、にぎやかじゃのぅ」 「先生っ!!」 天の助けとばかりに、ハーマイオニーが喜色満面でそれを迎える。 反対に、スネイプは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、そして。 「おとうさまっ!!」 ハーマイオニー以上に嬉しそうな表情をしたが、勢いよくダンブルドア目がけて走って行った――って 「「「えぇぇぇぇぇえええぇーっ!!?」」」 半ば悲鳴のような叫びに、スネイプが表情を顰めたが、僕たちはそれどころじゃなかった。 今、お父さまって言った!?、ダンブルドアをお父様って言ったよね!!? その叫びに驚いたのか、は目を丸くしつつも、しっかりとダンブルドアの服の裾を掴んでいた。 ダンブルドアもダンブルドアで、飛び込んできたを余裕で受け止め、よしよしとその頭を撫でている。 確かにその図は、彼女のお目当ての人物がダンブルドアその人であることを示していて。 でも。 「お父さまって……普通おじい様だろ、それ!!」 またもや、ロンの叫びが僕たちの心とシンクロした瞬間だった。 そして、ダンブルドアはそのロンの失礼とも言える言葉にも、特に気分を害した様子はなく、 寧ろ愉快で堪らないとでもいうように、悪戯っぽく瞳を細めた。 「ふむ。確かにわしはおじい様と呼ばれてもおかしくはない歳じゃがのう。 まず、孫を持つには子どもがいなくてはならんの。生憎、わしは独り身じゃよ。のぅ、?」 「?はい。おとうさまは、おくがたをおもちではありませんね。わたしとも、ちはつながってませんです」 「血など繋がってなくとも、はわしの可愛い娘じゃよ」 「……はいっ!おとうさまは、わたしのたいせつなおとうさまです!」 今まで見た中で一番幸せそうに、可愛らしく笑う。 その姿になんだろう、僕はどっと疲れが押し寄せるのを感じた。 「ところで、今日は一人で来たのかね?こんな遠いところに来るのは大変じゃったろう」 「はい。でも、ちょくせつ、おようふくのおれいがしたかったのです」 「気にせんでもよいのにのぅ。本当には真面目じゃな」 「そんなことはありません。とうぜんのことなのです。それで、おとうさまのことをえにかいたのです」 「おお!それは楽しみじゃな。どれ見せてごらん」 「はい!あ、あれ……?えが……」 それは、今まで色々振り回されたロンも同じだったらしい。 見るからに疲れた表情をして、ロンは手にしていた羊皮紙を無言でに突きつけると、僕と頷きあった。 「あ、ありがとうです!おとうさま!ありました!!」 「ほう……これはうまいもんじゃな。わしはこんなにハンサムだったかのぅ」 「おとうさまはいつでもハンサムですvのじまんです」 「ふぉっふぉ。わしもじゃよ。はわしのじまんのむすめじゃ」 「……っ!おとうさまっ!」 「「もう勝手にしてくれ」」 「……教授、なんていうか色々とすみませんでした」 「……もう良い」 ―作者のつぶやき♪― この作品はキリバン12000hitを見事に踏み抜いたケイ様に捧げます。 はい。という訳でお送り致しました、ハリポタ夢いかがでしたか? リクエストは『おとなしくて礼儀正しい真面目な幼子がみんなに可愛がられるお話』というものでした。 ええと、ある意味可愛がられましたか、ね……? 他にご要望もありませんでしたし、みんな、という幅広い指定だったので、 お相手を誰にするか非常に迷いましたが、とりあえず子ども組に出張っていただきました。 最初はルーピン先生とかも出る予定でしたが、長くなりすぎたので割愛(笑) ほのぼのにするという手もあったのですが、まぁ、ウチのハリポタ連載ギャグなので☆ こんな感じになりましたが、お気に召して頂ければ幸いです。 個人的に「嗚呼、この子ヴォル様の娘とか美味しいな!」とか色々妄想出来て楽しいリクエストでした。 以上、12000hit記念夢『父をたずねて何千里?』でした! ケイ様のみお持ち帰り可です。 いつも応援ありがとうございます!これからも亀の歩みのサイトですが、どうぞお楽しみ下さいw |