親馬鹿いこーる?
Phantom Magician、44
「、?」
「んぁ?」
自分を呼ぶ声に、ぼけらっと隣を見やる。
すると、そこには、ハーマイオニーを筆頭に、グリフィンドール仲良し三人組が立っていた。
その表情は一様に心配げなそれで、はて、何でこいつらはこんな
表情であたしを見ているのだろう、と首を傾げる。
と、そんなあたしの様子から、全く状況を把握していないことを悟ったらしいハーマイオニーは、
黒板をご丁寧に指さしながら、説明を付け加えてくれた。
「もう授業は終わったわよ?」
「へ?」
そして、その指先では、ティーチャーマクゴナガルが、苦虫を噛み潰したような
表情でこっちを見ていた。
正直に言って、般若の如きご尊顔だった。
……超怖ぇっ!
え、なに、あたしよりによって変身術の授業でうわの空だったの!?
うわー、絶対次の授業ついていけないよ。間違いない。
そして、授業中軽く1点や2点さっぴかれてる。間違いない。
「……はぁ」
嫌な現実を想像してしまい、心の底から嘆息する。
11月に入ってもう1週間は経っているというのに、どうしても色々なことが頭を離れず、怒られること十数回。
(ちなみにほとんどがミスタースネイプだったりするんだが)
すでにフリットウィック先生やマクゴナガル先生は注意することすら諦めたくらい、と言えば分かりやすいだろうか。
それくらい、あたしは気もそぞろな状態で日々を送っていた。
同級生は悪い物でも食べたんじゃないかと、胃薬を寄越す始末である。
(失礼な話だ。でも、もともと胃腸が丈夫じゃないので、ありがたく頂いておく)
あー、あと、中には恋煩いか!?と絶妙な勘違いをしてくる輩もいないでもなかったか。
(そんなもん、この世界に来てから不治の病になっているので今更である)
真相は、まったく別だというのに。
あたしがそんないつも呑気に見えるんだろうか。
……見えるんだろうけど。
あたしだって、考える時は考えるし、真剣になる時はなるんだけどなぁー。
なんで、こう、皆であたしをお馬鹿な子だと見做しているのか。
日頃の行いはすっかり忘却の彼方で、首を捻る。
客観的にはそれほど間抜けな行動も言動も極力避けているというのに、ままならないものである。
(もちろん、スティアばりに読心術使える人がいたら、はっきりあたしをお馬鹿と判断するかもしれないが)
が、ままならなくてもなんでも、あたしは現実を生きていかなきゃいけないので。
マクゴナガル先生の印象が大層悪くなるなんて状況は、なるべく避けたかったりする。
どうも、あの表情を見る限り、この授業では失敗したらしいが。
うああぁー、少なくとも魔法薬学と変身術だけは真面目に受けようと思ってたのにっ!
どうしても思考のそれる想像力逞しい自分が恨めしいわ、ホント!
考えれば考えるほどに顔色を悪くするあたし。
すると、そんなあたしを慮るかのように、
ハーマイオニーは「分からないところは後で教えてあげるわ」と神の如きお言葉をくれるのだった。
嗚呼、本当にハーマイオニーの友達で良かったっ!
心の底から神様の悪戯を感謝していたが、そこは追及の鬼ことハーマイ鬼ー。
ただで、そんなことをしてくれるワケではなく、「貴女、この頃おかしいわよ?一体どうしたの??」と質問をしてきたり。
まぁ、自分でもいろいろなことが疎かになっている自覚はあるので、あれなのだが。
質問されてしまうと、どう返すべきか、非常に困るというのが本音だ。
「あー、えーと、それはだねぇ……」
だって、あたしが授業そっちのけで考えていたのは、『ハリー=ポッターと賢者の石』のことなのだから。
ハロウィンの日に現れたトロール。
あれは、物語の要ともいえる重要イベントだ。
あれによって、ハリーたちは仲を深めるし、何よりスネイプを怪しいと思うきっかけになるのだから。
だが、それは、
この世界においては、酷くおかしい。
あたしにとって都合の良い世界。
ヴォルデモートがいるはずのない世界。
怪しいも何も、この世界では事件が起こるはずがないのだから。
まるで、
前提条件を根底から覆されたかのような気がしたのは、気のせいではない。
そもそもフラッフィーが校内にいた時点でおかしかったのは確かなのだ。
まさか、校内以外に行き場がなかったワケじゃあるまいし、あたしはあそこでもっと疑問に思うべきだった。
何故、校内にいるのか?
当然、『賢者の石』もしくはそれに匹敵する重要アイテムを守るためだ。
誰から?そこが問題だ。
ヴォルデモートのいないこの世界で、一体誰から守る必要があるというのか?
あたしの知らない闇の魔法使い?
いや、ヴォルデモートすら退けるダンブルドアを向こうに回せるほど根性ある敵が原作に出ないはずがないだろう。
(ちなみにマルチなんかは除外。あれは一人で何かに立ち向かうタイプじゃない)
ならば、実はヴォルデモートは死んでいない?
いや、だったら、何故クィレルがあそこまでまともなのか。
ターバンもしていなければ、どもりもしていない彼が操られているとは到底思えない。
分からない。
分からない。
ぐるぐると。
ぐるぐると思考が巡る。
不意に浮かぶのは、金糸の髪のそれは綺麗な青年だったが。
あれは、違うと。
あたしの本能が訴える。
ぶっちゃけ性格悪そうだし、選り好みも激しそうだし、
許されざる呪文をあっさり使っちゃうような危険人物ではあるけれど。
彼が、守護しているものを危険にさらすとは、どうしても思えない。
となると、考えはふりだしに戻ってしまう。
この世界は、何だ?
一体、ここで何が起こっている?
敵は……いるのか?
なら、それは誰だ。
が、まさか、物語渦中の主要人物にそんな話ができようはずもない。
っていうか、ぶっちゃけて、この世界でその話ができるのは、
今頃寮の談話室ででもぬくぬくしているであろう、スティアだけなのである。
ので、あたしの返答は非常にあやふやで、かなり当たり障りないものになってしまっていた。
「ええと、実は最近嵌っている小説があってだね……。
その先の展開が非常に読めなくて、気になるっていうかなんというか……」
「まぁ、ったら……」
読書好きのハーマイオニーとしては、気持ちは分からなくもないのだろう。
だが、真面目一徹な人物であるが故に、彼女はすぐさまきっと厳しい表情を作る。
「だからといって、授業を疎かにして良いということにはならないわ!
一体、何ていう本なの?私が先の展開を教えてあげるわ」
「……君って子は、なんてこと言い出すんだ!?」
ネタバレご法度の人物が聞いたら青筋立ててどころか、
怒髪天を突きそうなセリフをあっさり言うハーマイオニーだった。
あれだ。すっげぇ楽しみにしてるオチをわくわく読んでる最中に、いきなりバラすような子だ、この子。
ネタバレといえば、全く気にしない人は気にしないが、気にする人は凄まじく気にするという取扱厳禁なものである。
それをこんなあっさり言っちゃえるあたり、彼女の対人スキルはまだまだといったところだろう。
実を言えば、あたしはネタバレに関してはそこまでの抵抗がある人間ではないのだが、
でも、流石に鬱陶しいから教えてやるという態度を取られて寛容になれるほど、読書を捨てていない。
「絶っっっ対、ハーマイオニーにだけは教えない!」
「あ、じゃあ、僕たちになら教えてくれる……」
「黙ってて頂戴、ロン!」「ロンは引っ込んでて!!」
結局、その後は読書論争に突入し、あたしはどうにかこうにか話題を逸らすことに成功した。
おとぼけなロンの発言に、珍しくも感謝である。
が、しかし、世の中なんでもそう上手くは運ばないようで。
その日の昼御飯を食べている最中、マクゴナガル教授は思わぬ爆弾をあたしたちの元に投下していったのだった。
「ミスターポッター、ミスターウィズリー、ミスグレンジャー、ミスは食事をとった後、校長室までくるように」
「「「「は?」」」」
瞬間、全員が探るように視線を交わし合う。
その意味を要約するとするならば『お前らなんかしたんじゃねぇだろうな、コラ』である。
全員が全員、自分のことは棚上げだ。
(ちなみに、誰ひとりとして、この前のハロウィン騒動のことなんて頭にも上っていない。
何しろ、あの場で加点やら説教やらはあったし、原作でもそれ以上の何かはなかったからだ)
いっそ天晴なほどふてぶてしいその態度に、マクゴナガル先生の目の端がぴくぴく動いたが、
職務に忠実な彼女は、それだけを告げると「では」といなくなってしまった。
(……単純に、こいつらに付き合ってられるかと思われたんじゃないことを祈りたい)
「ええと……ぶっちゃけ心当たりのある人は?」
で、まずは問いかける。
呼び出された時点で、高確率で怒られるのは確定なのだが、
それでもやっぱり、心構え位はしておきたいところである。
がしかし、そんなあたしの問いに、ハリーたちは全員そろって首を横に振った。
「ない、よな……?」
「ないわ……」
「僕もない……」
「奇遇だね。あたしもない」
個人的なことを上げれば、心当たりがなくもないのだが。
ハーマイオニーはきっと成績について、素晴らしいもっと頑張れ的なエールとか。
ハリーは明日のクィディッチ初試合の激励とか。
ロンは……うん、知らない。
(ちなみに、あたしはといえば、
ケーのことはもちろん、日常的なピーブズとの攻防やら最近の授業態度を入れたら寧ろありすぎるくらいだ)
それなら、呼び出しがかかるのは一人だろう。
なにも、雁首揃えて校長室に行くことはない。
が、いくら考えても答えなんて出るはずもなかったので。
あたしたちは素直に昼食を平らげた後、校長室への道のりを歩きだすのだった。
で、順当に、真っ当に辿り着いた校長室。
あれ、そういえばあたしたち合言葉知らなくね?とかうっかり道中思ったりもしたが、さもありなん。
ガーゴイルの前には、すでに校長がスタンバって、にこにこと手招きをしていた。
正直に、その笑みが胡散臭くて堪らなかったが、まぁ、まさか校長から逃げる訳にもいかない。
あたしたちは困惑を顔中に張り付けながら、しぶしぶダンブルドアの元へ向かう。
そして、4人がしっかりと自分の傍に来たことを確認した彼は、にっこりと笑みを深めてこうのたまった。
「さて、これで全員じゃの。では行くとしようか」
いや、行くってどこにスか、先生。
誰もが口に出さないまでも同じことを思った。
すわ、禁じられた森じゃあるまいな!?と一瞬ひやりとしたあたしだったが、
結論から言えば、それは杞憂だったと言える。
「ブルブル・マウス」
校長は、何の捻りも衒いもなく、あっさりと校長室へあたしたちを誘ったのである。
ああ、そっか。
きっと合言葉をあたしたちに知らせなかったから、わざわざ外で待ってたんだな、うん。
(っていうか、ひょっとして合言葉この前と変わってね?あたしそんな菓子知らんぞ)
自明のことだったが、なんだろう。
これから特別などこかに連れて行こうとするかのようなダンブルドアの態度に、変な期待をしてしまったらしい。
まさか、茶目っ気たっぷりの校長でも、そういつもいつも奇抜なことをするワケではないのだ。
そのことに、僅かな安堵をするが、こっちが気を抜いたのを見計らったかのようなタイミングで奴は口を開くのだった。
「皆、お主らのことを首を長くして待っとるよ」
「……は?」
『皆』って誰だ、と全く心当たりのないあたしだったが。
……どうにも嫌な予感がひしひしとしてきた。
そして、世の中、嫌な予感ほど良く当たるものである。
そう。在る意味、校長室は今『特別』な空間となり果てているのだった。
「「「げっ!」」」「嘘っ!!」
辿り着いたそこ。
そこには。
「ああ!ハリー!?大丈夫かい!?トロールと対決したと聞いて僕は心臓が縮まったよ!
なんで、よりによって僕がいない場所でそんなことをするんだい!
せっかくの息子の勇姿が記録できなかったじゃないか!」
「……ジェームズ。貴方は心の底から黙っていて頂戴。ハリー、どういうことか説明してくれるわね?」
「ロナルドっ!貴方って子はっ貴方って子は……っ!
あのフレッドやジョージでさえ、一年生でそんな無謀なことはしなかったっていうのにっ!!」
「まぁまぁ、モリー。まずは事情を聞いてからにしよう」
「ハーマイオニー、ああ、よかった。怪我はない!?
お父さんはお仕事で無理だったけれど、お母さん、貴女が大変な目にあったって聞いて飛んできてしまったわ」
「…………どういうことか説明しろ」
我らが親馬鹿ーズの姿がありました☆
すみません、リアルに泣いて良いですか?特に最後の人の眼光にw
「「「「…………」」」」
あまりに予想外の光景に顔色を失くした子ども組は絶句である。
まぁ、普通に考えてトロール事件なんてものがあったのだ。
親呼び出しくらい当然ではあるので、思い至っていなかった自分たちがこの場合間抜けなのだろう。
示し合わせたわけではないが、全員が全員、バツが悪そうに俯く。
しかし、殊勝とも思えるその態度にも、正義は我に在り!って表情している親は反応なし。
さて、誰から先に説教が始まるか、と子どもたちは覚悟を決めた。
がしかし。
結論から言えば、説教はほぼ同時に始まったと言って良いだろう。
「「こんの馬鹿息子(娘)がっ!!」」
校長室に響き渡る怒号×2。
ええ、誰の声か分かりますよね。うん。
ちなみに、あたしの相手は迫力満点美系のシリウスだったりする。
当然、あたしには同じように怒られているロンに同情したり気に掛けたりする余裕がなくなった。
(いや、ロンだから元々気にかけるかは微妙なところだったんだが)
うん。マクゴナガル先生が般若ならば、ここにいるのは悪鬼羅刹である。もしくは雷様。
そしてその雷様は、まさしく雷のごとき怒号で、あたしの鼓膜を破壊せんばかりに怒鳴り散らし始めるのだった。
「トロールと馬鹿正直に相対しただと!?一体何を考えているんだお前は!」
「ごごごごごめんなさいっ!」
凄まじい怒鳴り声に、あたしはもう謝ることしかできない。
個人的にリーマスに笑顔で怒られるよりは良いかなーとも思うけれど、
怒られるのはできるだけ避けたいのが人情である。
こうなればもう、平謝りに謝り倒すしかないっ!
「ごめんなさいすみません申し訳ございませんもうしませんっ!」
「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
が、その態度は寧ろ逆効果だったと言えよう。
あまりの早口に誠意が感じ取れなかったらしく、シリウスの目が完全に据わるのをあたしは見た。
「それが謝る奴の態度かっ!!!!」
うん。火に油注いじゃった☆
「リーマスが成績が良いだのなんだの書いて寄越すから、随分進歩したんだなと感心したらこれか!
たかだか魔法を習って数か月なのに倒せるわけがないだろう、馬鹿が!十年早いわ!!
それともなにか?成績が良いからってトロールぐらいわけないと自惚れたのか?
嗚呼、そうだな。確かに怪我ひとつなくここに立っているな。
見るからにぴんぴんしていてぶん殴りたいくらいだっ!!
聞いてるのかっ!?っ!!」
「…………」
「それはただ単に運が良かっただけだということがまだ分かってないのか!?
普通だったら棍棒で殴られて、今頃お前はあの世逝きだ!!
さぞ、スリザリンの物笑いの種になったことだろうな!」
「……………………」
「……なんだその不服そうな
表情は!?」
マシンガンなトークに、正直な感想が表情に出てしまっていたらしい。
最初の十数秒はちゃんと怒られる気持ちもあったんだけどさー。
うん。ちゃんと謝ったのに超上目線で怒鳴られたら、あんまし気分良くないよねって話。
まず話を聞くくらいしろや。
嗚呼、むかむかする。
「……そりゃあ、不服ですけど?」
それがなにか?
「なっ!!?」
挑発的なあたしのセリフに、今度はシリウスが絶句する場面だった。
自分でもびっくりするくらい刺々しい声に、頭の片隅であたしは自分の心情を冷静に理解した。
あ、これ八つ当たりだわ。
「ぶん殴りたい?ああ、そうそれが本音?へぇー、とんだ保護者もいたもんですよね。
話も聞かないで、あたしの行動をまず責める、と。
自分だって、友達のために無茶やら無謀やら散々やらかしてるくせに、あたしのことは責めるんだ。ふーん。
そりゃあ、あたしにも悪い部分はあったし、怒られるのもしょうがないかなーとか思ってたけどさ。
……まず、心配してくれんのが普通なんじゃないの!?」
「はぁっ!?お前、いきなり何を言い出すんだ!」
あまりにも身勝手な言葉に、シリウスのこめかみに血管が浮くのを感じた。
でも、一度切れてしまった堰は、もう元には戻らない。
溜まったストレスは、一度爆発してしまえば、もう、止まらない。
「スリザリンの物笑いの種?真っ先に出てくんのがそれか!
セドリックまではいかなくても、もうちょいなんかあるだろうが!馬鹿じゃねぇのかマジで!!」
「〜〜〜〜〜〜!!!」
「あたしが平気で前に飛び出したとか思ってんのか!
あんな馬鹿みたいにでかくて頭悪っそうなトロールに進んで向かっていきたい奴なんかいるか!」
「っ!!」
自惚れていたさ。
魔法が使えるあたしは、確かに強いから。
でも、あたしはそうじゃない自分も、その弱さだって、知ってるんだ。
「恐かったに決まってんじゃんっ!」
助かったことを、誰よりも喜んだのは自分だ。
怪我ひとつしなかったことに安堵したのも自分だ。
でも、それでも。
「なんで心配してくんないの!シリウスの馬鹿!!デリカシーなし
男!!」
あたし、そんな強くないんだよ。
あたしが叫んだ瞬間、部屋中が水を打ったような静けさに包まれた。
シリウスは、あたしの支離滅裂で自分勝手な言葉に、しかし、外見年齢を思いだしたのだろう、
苦虫を噛み潰したような
表情になる。
(あたしの精神年齢がどうあれ、傍から見れば、小さな子に怒鳴る大人の図だ)
相手の幼さと、自分の大人げのなさ、そして自分が言った言葉の最低さに思い当たったらしい。
謝ることこそしなかったが、その瞳が後悔に揺れるのが分かった。
……いや、謝れよ、そこは。
こんだけ静かなんだから、ぼそっと呟くだけでも聞こえるって。
「「…………」」
が、しかし。シリウスは謝らなかった。
あたしも、もちろん謝らなかった。
……このボンボンが。
心の中で溜め息を吐いて、まぁ、お互い様だしと思うことにする。
そして、思ったところで、あたしはあることに気付いた。
……あれ。
シリウスが黙るのは良いとして……何故に他の家族の怒鳴り声もしないんだ。
その静けさに、ふっと我に返ったあたしは、恐る恐る辺りを見回した。
……部屋中の注目があたしに集まっていた。
「〜〜〜〜〜っ!?」
何故だかハーマイオニーとハリーは頬をピンクに染めて「可愛い……」とかなんとか呟いてるし。
ロン一家はポカーンと揃って口を落っことさんばかりに開けてるし。
ジェームズに至っては口笛まで吹いて、今にも拍手せんばかりに瞳を輝かせていた。
「って何で見てんの!?」
どうにかこの居心地最悪の状況を打破すべく、真っ赤な顔で特にジェームズに指を突きつける。
がしかし、指の先にいた男は、それはむかつくほどの笑顔で親指を立てた。
「そりゃあ、こんな珍しい
――もとい面白い光景見ないわけないさ!」
ぐっとそれは力強いジェスチャーだった。
うわー、ぶん殴りてぇー。
「あのシリウスが小さな子にツンデレを発揮されてたじろいでるんだからね。末代までの語り草だよ!」
「「ツンデレ言うなっ!!」」
シリウスと意見が被ったが、とんだ濡れ衣もあったものである。
このあたしのどこがツンデレだ!
シリウスとロンになんぞツン以外で接する気はないわ!!
心の底からの叫びに、ジェームズはキョトン、と目を丸くする。
「あれ?自覚なかったのかい?それはもう見事なデレっぷりだったのに。
もう、僕たちは息子の無事を確認しに来たのか痴話喧嘩を聞きに来たのかってくらい。
是非、今の会話をリーマスに聞かせてあげたかったね」
「ち、痴話……っ!?!?」
凄まじい単語が聞こえて戦慄する。
次いで続けられた言葉にも慄く。
確かに思い出してみれば色々恥ずかしくて赤面しちゃって穴があったら入りたいっていうか
寧ろ聞いた奴を穴の中に埋めたいような台詞を言っていた気がしないでもないけどっ!!
それをよりにもよって想い人であるリーマスに聞かせたい、だと?
「止めて下さいお願いします絶対嫌だぁああぁぁあー!!!」
。外聞もなく半泣きでの懇願である。
それに対して、ジェームズはといえば。
「……うん。善処するよ☆」
超絶爽やかかつ嘘臭い笑みで答えるのだった。
「……う、うわぁあああぁぁーん!!」
腹黒眼鏡いこーるプロングス。
......to be continued