人間、それなりに取り繕う事って大切だよね。







Phantom Magician、24







「では、このマッチを針に変えてごらんなさい。
きちんと黒板に書いた理論を理解していれば難しくはないはずです」と。
そう言われて早数十分。



「だから、そこは違うって言っているでしょう!?」
「うるさいな!君はちょっと黙っててくれ!」
「黙っていられないくらい酷いから言っているのよ。貴方、ちゃんと先生のお話を聞いていたの?」
「聞いてたさ!だけど、できないものはできないんだ!」
「嘘をおっしゃい!ハリーと二人で余所見していたのは知っているのよ!?」
「君こそ、僕たちの方を見てたんじゃないか!」
「貴方たちがうるさいからよ!それに私はきちんと話を聞いていたわ」
「僕たちだってちゃんと聞いてたんだ!」



……ちょっと、こいつらいい加減にしてくれないだろうか。

さっきから行われる小声の舌戦に、あたしは心の底からイラついていた。
授業が始まった当初は良かったんだ。
皆、ノートを取るのに必死だったから、馬鹿な言い争いもせずすんでいた。
が、しかし。
それぞれが杖を取り出して呪文を唱え出し、若干周囲が騒がしくなってからはもう駄目だった。
止せば良いものを、ハーマイオニーがロンの不真面目な態度に物申すところから始まり、
ピーチクぱーちく、現在に到るまで低レベルな口喧嘩が延々と繰り広げられている。
あたしを挟んで。
そう、このあたしを挟んで!
何だ、この席順。すげぇ悪意感じるんだけど!
なんであたしがこんなものに巻き込まれなくちゃいけないんだ、今畜生!
あー、折角、はじめての変身術だったのに。
先生、あたしロンと席代わりたいです!ハリーの隣が良い!

ロンとハーマイオニーの仲は、原作同様、現状最悪だった。
もう、顔を合わせればお互いに嫌味を言い合ったり、相手をけなしてみたり……。
そのくせ、相手がいる方へわざわざ向かったりするんだから、処置なしだ。
お前ら小学生かよ!と思う。
(や、日本の小学生の年齢なんだけどね?なんか高学年じゃなくてこいつらって低学年レベルなワケ)
もう、すごいんだよ?
寄ると触ると大ゲンカ。
お互いここまで嫌えるかってくらい。顔見るだけで不機嫌になりやがんの。

で、結果。
こうして授業なんかで席が近くなったりした日にはえらい面倒臭いことになる、と。
まぁ、その内仲良くなるんじゃね?とか思って、下手に介入しなかったあたしが悪いんだろうか。
いやー、でも友達との付き合い方って自分でどうにかして学んでくもんじゃん?
他人に言われたからってすぐ直せるようなもんじゃないって。
……うん。あたし悪くないな。微塵も悪くない。



「ああ、そうじゃないってば!良い?ここはこう振って……」
「だから、君には聞いてないって!」



悪いの絶対こいつらだよね。

傍から見たら、学習能力のないお馬鹿さんがじゃれ合っているようにしか見えない二人に、冷たい視線を送る。
が、二人は全くそれには気付かない。
お互いがお互いに夢中という奴だ。
マクゴナガル先生が気づいて注意してくれればまだ良いのだが、
頼みの綱の先生は大分遠い席でネビルに個別指導中だった。

……さて、一体どうしてくれようか、このバカップル。

と、あたしが二人をどうやって諌めるか方針を決めかねていたその時。



「ああ、もう一人でだってできるんだから、邪魔しないでくれ!」


ボッ


「うあっ!?」
「「「あ」」」



ロンが振り回した杖から火花が散った。
あたしに向かって。
当然、あたしはその攻撃から必死になって逃げたが、残念ながらローブはその動きについていけず。
ハリー、ロン、ハーマイオニーが見ている目の前で、あたしのローブには穴が開いてしまったりする。



「…………」



とりあえず、冷静にあたしは被害状況を把握する。
うん。まぁ、ローブ以外はみんな無事って感じかな。
火傷がなくて良かったね、状態?

と、あたしは痛くなかったので、思ったより冷静だったが、見ていた側はそうでもなかったらしく。
近くにいた3人は顔面蒼白にしてあたしに詰め寄ってきた。



っ!」
「ご、ごめんよ!怪我はしてない!?」
!貴女大丈夫!?」
「ああ、うん。ローブ焦げただけ」
「本当?けがはないんだね?」
「心配してくれてありがとう、ハリー」
「ああ、でも、良かった!ローブだけなのね!」
「うん。そう」
「良かったー……ローブだけだったのか。焦ったよ」
「へぇ。そう」



うん。ローブ『だけ』ですよ?



「まったく!貴方が杖を乱暴に扱うからよ!」
「そもそも君が横からごちゃごちゃ言ってくるから……っ!」
「なんですって!?」



ローブ『だけ』だ。怪我はしてない。ええ。それは間違いないですよ。
だけどねぇ……。



「お前らいい加減にしろよ、マジで!」
「「!!」」



二人のあまりの自己中っぷりにキレた。



「さっきからゴチャごちゃゴチャごちゃ、ケンカばっかしやがってっ!
今、授業中なんだよ!ケンカする時間じゃないから!!
そんなに痴話喧嘩やりたいんなら、あたしのいないとこでやれっての!
おまけに低レベルすぎるんだよ、さっきから!隣で聞いてるあたしの身にもなれ!!」





っていうか、まず謝れや!





ずびしっとあたしは名探偵の如く二人に指を突き付ける。
(*注:よい子のみんなは人を指さしてはいけません。え?あたし?あたしは大人だから良いのです)

二人が目を丸くしているが、それはもう見なかったことにして、
あたしは日ごろの欝憤をぶちまけるべく、考え付くままに口を開いた。



「まずロン!」
「うわ!ぼ、ぼく!?」
「そうだよ赤毛の手前ぇだよ!他にロンがどこにいんだよ!
不真面目な態度でいんのがそもそも悪いわ!
人に当たり前のこと指摘されたからってキレてんじゃねぇ!何様のつもりだ、ああん!?」
「……ち、チンピラ」
「黙れへたれ!」
「そ、そうよそうよ!貴方たちが真面目だったら私も注意せずにすんで……」



あたしの言葉を援護と勘違いしたようで、勢い込んでロンを非難しようとするハーマイオニー。
が、しかしそうは問屋がおろさない。



「いや、なに一緒に非難してんの?」
「え?」
「ハーマイオニーも悪いんだよ」
「えぇっ!?」



話はちゃんと聞こうぜ、お嬢さん。
あたし『まず』って言ったよなぁ?
『まず』の次は『そして』って相場は決まってんだよ!



「ハーマイオニーはいちいち人のことにばっか構ってるからこういうことになるの!
日本じゃねぇ、こういうのを『小さな親切大きなお世話』っていうの。分かる?
つまり、聞かれてもいないのに人に自分の考え教えたって良いことなんか一つもないんだよ!」



見ろ!おかげであたしにとばっちりが来たじゃないか!
魔法で直せるとは言え、人様の所有物に傷つけるとか、大人なら損害賠償ものなんだぞ!
それとも、お前ら慰謝料請求されたいのか!

大人の義務として、あたしはしっかりと二人を叱りつける。
本当だったら、もっと理路整然とこいつらに自分達の非を言い聞かせるところなのだが、
いかんせん、あたしも感情が先走って、思いつくままの微妙な説教になってしまった。
もちろん、ローブに穴を開けられたせいでキレたんじゃないよ?うん。
あたしに怪我させる気か、この馬鹿どもが!とか思ってない。思ってない。

と、あたしが大体言いたい事を言い切ったその時、



「素晴らしい演説でしたね。ミス
「へ?」
「ですが、貴女ももう少し静かにすることをお勧めしますよ。特に授業中は」



背後にグレート・ティーチャー・マクゴナガルが立っていた。
……怖っ!!
え、ちょっ!いつからいたんですか!?
凄ぇド迫力!別に大きな声なんか出してないのに、脳髄に響くってどういうこと!?
っていうか、ここもの凄い注目集めてるよ、いつのまにか!?

そして、教室中の注目を浴びる中、マクゴナガル先生はそれはもう厳かに口を開く。



「さて、貴方達。騒いでいたからには、すでに私が与えた課題はこなせているのでしょうね?」
「「「「…………」」」」



が、一同無言。
ハリーとロンは普通にできていないし、
ハーマイオニーはそんな二人(っていうかロン)に教えていて自分のはやってない。
で、あたしはと言えば隣りのケンカに苛々して、そもそも魔法を使おうとすらしてない。
もちろん、誰ひとりとしてマッチを針に変えていたりなんかはしなかった。
うえぇ!?どどど、どうすんの、この状況!
マクゴナガル先生、めっちゃこっち見てるんだけど!
さぁ、手前ぇらやって見せてみろ、と言わんばかりの視線なんだけど!
え、やるの?これ、やるの?
ぶっちゃけ、他の授業ではその授業の概要しかやってないんだけど。
この前ピーブズに使った適当な魔法除くと初めての魔法なんだけど!
よりによって、初体験がこんな状況かい!

と、あたしが戸惑っている間にも、マクゴナガル先生の促しに応え、三人は杖を振るう。
まぁ、結果はね。
考えるまでもなくハーマイオニーの一人勝ちだよね。



「素晴らしい。みなさん、グレンジャーのマッチ棒をごらんなさい。
見事です。グリフィンドール5点追加。
みなさんもこのように銀色で、尖った針にするのですよ」



せんせーい。みなさんと言いつつこっち見るの止めてくださーい。
ああ、もう。
上手くいくか自信全っ然ないのに!
やるっきゃないって状況じゃねぇか、これ!

とりあえず、これ以上あたしに注目が集まるのは耐えられなかったので、目の前のマッチ棒に意識を集中する。
ええと、針。針ね?
ハリーじゃなくて針に変えれば良いんでしょ?
ううう。木を金属に変えるなんて、元素とかの化学を思いっきり無視してることあたしにできるだろうか。
等価交換の原則、完全無視だよ。
それこそ賢者の石がいるっての。助けてエルリッ○兄弟!

一抹の不安がよぎるが、まぁ、初めての魔法だし。
失敗するのが当然!くらいの思いで、あたしは杖を振るう。
見よう見まねって感じで、若干ハーマイオニーの時とかマクゴナガル先生のお手本とは動きが違った気もするけど。



「あ、変わった」



さもありなん。あたしのマッチ棒は、見事なマチ針に姿を変えていた。
……なんでマチ針やねん。
間違ってない。間違ってはいないよ?
でも、あたし素直にハーマイオニーの針目指してたんだけど!
なに?マッチとマチでかけてんの?
面白くもなんともないし!
あたしの頭の中どうなってんの!?残念すぎるんですけど!

と、あたしはあたしでビックリだが、ハーマイオニーとマクゴナガル先生も別の意味でびっくりだった。



「凄いわ、。でも、ちょっと私と動きが違ったような……」
「……おかしい。あのような手の動きで変わるわけが。いや、しかし……」



二人とも混乱中。
うん。そうだよね。二人ともこんな動きじゃなかったもんね!
……サーセン☆

特殊な事情で、思うだけで魔法が使えるあたしだったが。
とりあえず、動きとか呪文くらいはちゃんとしないと怪しまれるなーと思った今日この頃。










人間関係の円滑さって得がたいもんだぜ!?









......to be continued