気分も新たに新学期!







Phantom Magician、22







あたしの輝かしいホグワーツ一日目は、なんともみじめな感じでスタートを切ることになった。
というのも、全て姿くらまし、ひいてはシリウスのせい。
折角、楽しみにしていたホグワーツ特急も、景色を楽しむこともできずグロッキー。
乗る前から具合が悪かったあたしは、列車に乗ったことで自分の首を絞めてしまった。
いや、乗らないとホグワーツにつけなかったんだけど。
できれば、激しく遠慮したかった……。
吐くことこそしなかったものの、列車の中では死んだように眠ることしかできず、
ハリーとロンの出逢いやらドラコとの再会、ハーマイオニーとの邂逅も目撃し損ねてしまった。
結構これ、後々まで影響する重要イベントだったのに……。
激しい後悔を覚えたが、それ以上の吐き気に、あたしは全ての思考を放棄したのだった。
(嗚呼、誰もこのコンパートメントに入ってこなくて良かった……)

で、ふと起きたら、眼の前にはそっくりな顔×2のドアップ。
目の前が真っ赤である。
ええと、ドッペルゲンガーか?



「おや、起きたみたいだゼ、兄弟」
「本当だね。まったく、一年生のくせに寝坊するなんて大物だぜ、こりゃあ」



訂正。ドッペルではなく、兄弟(おそらく一卵性双生児)のようだ。
それも、赤毛。
あたしの頭は瞬時に、目の前にいるのが誰かを弾きだした。
一応、間違いないとは思うが確認するべく、億劫でも口を開く。



「ええと、どちらさま……?」
「どちらさまだって?それはひょっとすると僕たちに聞いてるのかい、おチビさん」
「もちろんそうに決まってるだろう、おチビさん?」
「はい、まぁ……」



浮かない返事のあたしに、テンション高めのお兄さん方は大袈裟な感じで自己紹介を開始した。



「何を隠そう、我々こそ、希代の悪戯仕掛け人!」
「ムーニー、パッドフット、プロングス、ワームテールが後継者!」
「フレッド=ウィーズリーさ!」
「同じく、ジョージ=ウィーズリーだ!」
「「よろしくご贔屓のほどを!!」」
「はぁ……よろしく」



普段であれば、双子に出会えた幸運に有頂天になるところだが、生憎気分は最悪。
なので、適当にあしらう感じになってしまう。
双子、結構好きキャラなのに……。
でも、病み上がり(寧ろ上がってないけど)にこのテンションは無理。ウザイ。
すると、その気乗りしない様子のあたしに気付いたらしく、双子は揃って眉を跳ね上げた。



「なんとも、ノリの悪いおチビさんだなぁ。スリザリンか?」
「いやいや、寧ろこれはレイブンクロー的なノリじゃないか?」
「ふむ。なるほど一理ある」
「とりあえず、グリフィンドールではなさそうだ」
「違いない」



……何だか好き勝手言っている。
が、抗議をしようかどうしようか迷っているそこに、ひょっこり第三者が乱入してきた。



「オーイ、まだ起きないのかー?って、あれ?」
「いや、それがさ、リー。起きたんだけど、まだぼんやりしてるんだよ」



素敵なドレッドヘアーの黒人少年。
なんとなく予想が着いてたけど、双子の悪友、リー=ジョーダンである。
(ちなみに、あの解説も結構好き)
何で、よりによってこんな状況で人に応対しなきゃならないんだろう、あたし。



「おいおい。ぼんやりっていうか、顔色真っ白じゃんか。気分悪いのか?」



どうやらあたしに対しての問いかけっぽかったので、とりあえず、小さく頷いておく。
すると、リーはなんとなく事情を察したのか渋い顔をしつつ、双子を追い出しにかかった。



「何、気分の悪いチビにちょっかいだしてるんだよ」
「何言ってるんだよ、ジョーダン。最初に起こしてやった方が良いって言ったの、お前じゃないか」
「だからって、起こした後まで構えって言ってないだろ?」
「自己紹介してただけなんだけどなー」
「よく言う……。ホラ、もうすぐホグワーツだから、着替えた方がいいぜ」



あっさりと双子をあしらいながら、リーは爽やかにコンパートメントから去って行った。
流石にあの双子の親友はなかなかやるなー。
とりあえず、若干リーの株が上がったのは確かである。










「学校側の準備ができたら戻ってきますから、静かに待っていて下さい」



厳粛という言葉に色がつけばこんなもんだろう、というような声を残し、老魔女がこの場を去ったその時、
あたしの意識は不意に覚醒した。
え、え、ここどこ?
ごめん、ごめん。あたし現状がさっぱり理解できていないんだけど。
いつの間にこんな古めかしい謎の英国風建築物でちびっこに囲まれているんだ?



『謎のっていうか、ホグワーツだけど。何寝ぼけてるの、君』
「スティア……?」



不意に響いてきた案内人の声にほっとしながら、足元を視線がさまよう。
嗚呼、なんていうか、聞きなれた声って良いなぁ!
もう呆れを通り越して諦め入った感じだったけど、それでも耳に良いなぁ!
美声最高☆この世界の人、無駄に声良いから眼福もとい耳福ですよ、あたしは!

どうにか己を立て直そうと、とりあえずテンション高めに心の中で叫んでみる。
すると、小さなため息と共に、スティアがあたしの肩に飛び乗ってきた。



『おはよう。気分はどう?』
「え、あー……普通?」
『それは重畳』



『君、ここに来るまでほとんど死んでたよ』というスティアの一言に、思わず頭を抱える。
あー、ぼんやりとしか覚えてないけど、よくここまで辿り着いたね、あたし。
っていうか、1年生は移動手段が船とか一体どういうことだ。あたしを殺す気か。



『本来であれば、箒を除いて船が一番ホグワーツ城が見えるポイントを通るんだよ。
考えてもみなよ。一気に視界が開けた先に瀟洒な城がそびえてるのってかなり圧倒される光景だろう?
教員側の配慮だね。つまりは』



あたしはそれ、見れなかったけどな!
もうちょっと、乗り物に弱い人間に対する配慮があっても良いと思うんだ、あたしは。



『そんなこと僕に言われても。まぁ、組み分けはちゃんと受けられそうなんだから、よしとしなよ』



全然良くない、と思いつつ、そうか、もう組み分けの儀式に臨むのかと不思議な気持ちになる。
ここまでの道中が道中なので、感慨にふけってる間もなかったのだ。
自分が、そのハリー=ポッターの世界にいる。
ようやく原作にあった場面を経験し、あたしはここでようやくそれをひしと実感するのだった。

よくよく目を向けてみれば、ハーマイオニーらしき子は自分が覚えた呪文をぶつぶつ言ってるし、
あちらこちらで、何だか見覚え(読み覚え)のある光景が繰り広げられている。
小さな少年少女は、自分の寮がどのように決められるのか分からず、緊張の極致にいるらしかった。
何とも初々しい様子に、思わず笑みが零れる。
痛いことなんか、何もないのになぁー。



『で、君は?』



うん?
と、不意にスティアがそう問いかけてきた。



『君は気にならないの?自分がどこの寮になるか』



…………。
…………そ、そうだったぁあぁあぁー!!
言われてみれば、あたしも新入生じゃん!
痛くないのは知ってるけど、寮だよ!寮決めるんだよ!?
あの、人生を左右するとも言われる組み分けをあたしも受けるんじゃんか!



『今頃気づいたのか……』



うわん、スティアの馬鹿ー!
そういうことはもっと事前に言っといてよ!?
うああああ、グリフィンドールでもスリザリンでもなかったらどうしよう!?
レイブンクローとかハッフルパフとかぶっちゃけ空気じゃん!
ハリーとの接触、食事時と図書館とクィディッチだけじゃん!
あああああたしの癒しが!



『……ハッフルパフなら、あれいるじゃん。
生粋の爽やか男、セドリック=ディゴリーが』
「あたし、ハッフルパフでも良いな!」



寧ろ、ハッフルパフが良くなってきた!
カミサマ仏様、帽子様!グリフィンドールでなかったらハッフルパフで宜しく☆
と、あたしが声高に宣言したためか、人垣が一気に割れる。
そして、あたしがそれを不思議に思う前に、いやに気障ったらしい声が耳を打った。



「ハッフルパフが良いなんて、君、随分と変わってるね?」
「は?」



くるり、と背後を見てみると、まず視界を彩ったのは見事なプラチナブロンドの髪、とデコ。
うん、もう、目を逸らせないほど見事なデコ。
だって、あたしより若干背が小さいから、自然と視線はそっちの方に吸い寄せられてしまう。
よくよく見れば、整った顔のつくりをした正統派美少年なのだが、どうにも将来が気になってそれどころじゃない子だ。



「ええと、君は……」
「僕かい?僕はドラコ=マルフォイ。マルフォイ家の嫡子さ」



輝くデコはそう言った。



「ああ、マルコ……じゃなかったドラコ君か」
「おや。僕のことを知ってるのかい?てっきり君はマグルかと思ったけれど、違うのかな?」



危ない危ない。
思わず、普段呼んでいる呼び方を言いそうになって、慌てて軌道修正をする。
(マルコ=マルフォイ(子)の略だ)
(ちなみに、父はマルチ。我ながら犯罪臭い素晴らしいあだ名だと思う)
すると、それにはどうにか気付かれなかったようで、マルコはあっさりと話を変えた。
……実はうすうす思ってたんだけど、こいつ単純だよね。



「えーと、一応純血だよ」



生粋の日本人だからな!



「へぇ、それは失礼した。東洋にも魔法使いがいるのは知ってたけれど、あまり係わりがないものでね。
素晴らしいよ。ぜひ、これからは親密な付き合いがしたいものだね」
「あー、こちらこそ」



勘違いするように仕向けたのはあたしだが、なんだろう、このむずむずする感じ。
ちびっこが一生懸命気取った話し方してるのって、生暖かい目で見たくなるよね。今まさにそんな感じ。
そして、勘違いさせたツケが回ったのか、
その後、上機嫌なマルコに付きまとわれて、あたしは更に疲れていくのだった。
おかげで、ゴーストたちにこっち指さしてひそひそ話までされたよ。
マルコ声でかいよ!自分が有名人でウザイって自覚しろよ!?
っていうか、お前、クラッブとゴイル放置かい。別に良いけど。










さて、所変わって、大広間。
あたしはマクゴナガル先生に連れられてやってきたそこで、驚愕のあまり叫びそうになった。



「リ…………っ!!?」



リーマスっ!!?

そう、広間の上座こと教員席を見るともなしに見ていたあたしは、愛しの鳶色をその視界に納め、
そりゃあもう、飛びあがらんばかりに驚いた。
ちょっと神経質そうな若い男の人と話していたのは、もう紛れもなくあたしのリーマス。
そう、あたしの目の錯覚か蜃気楼でなければ、あの教員席にいる天使の微笑みはリーマス!?
うえぇ!?何故?何故に、一年生でリーマスがホグワーツに!!?
え、夢?これって夢かしら??(まぁ、夢なんだけど)
これぞ夢のご都合主義!!?グッジョブ、あたし!

と、あたしの無駄に熱い視線に気づいたのか、
リーマスは悪戯が成功したかのような茶目っけたっぷりの瞳を輝かせて、小さく手を振ってきた。
ちょっと今までのあれこれで疲れ果てていたあたしには、効果絶大な微笑みとともに。



「!!!!」



あ、あたし死にそう。
キュン死にしそう。いや、マジで。
何このサプライズ。実はドッキリでしたとか後で言わないよね!?



「どうしたんだい、
「え、や、なんでも……っ」



全然なんでもなくない様子のあたしに、マルコは眉を寄せた。
そして、どうやらあたしが極度の緊張に達したとの結論をつけたようで、彼は不器用なりに慰めを開始する。



「大丈夫だよ、。あんなもの、ただ帽子を被るだけさ。
父上がそう言っていたんだから間違いない。
純血である君であれば、間違いなくスリザリンになれるよ」
「あー、うん。それは良かった」



分かった分かった。
マルチLOVEなのは分かったから、ちょっと黙っててくれるかな、君!
あたしは今、リーマスの一挙手一投足をこの目に焼き付けて、萌えを充電中なんだから!
一週間ぶりのリーマスは、やっぱり格好良かった。
正直、他の有象無象(=マルコ)なんて目に入らないよね、うん。



「あたし、ホグワーツに来て良かったっ!」
「……僕もに出会えて良かったよ」



そう、だから、隣で頬を染めるマルコ坊ちゃまも、あたしのアウトオブ眼中だった。
思ったより純な反応が可愛いんだけどね!
ごめん、今構ってあげてる余裕ないの、あたし!

それはもう、鬱陶しい位の熱視線を教員席に送る。

そして、当然のごとくリーマスと一緒にいる若い男も視界に納め。
と、あたしはそこで名探偵のごとく、あることに気付いた。
はっ!ってことは、あの隣でしゃべってるのって……。
もしかしてもしかすると、クィレルか!?
だって、先生方であんな容姿の奴いなかったと思うし!
頭にターバン巻いてないし、思った以上に顔整ってるけど、多分そうだよね!?
おおう。ターバンがないってことは本当にヴォルデモートいないんだ。
ハリーに存在抹消されちゃったのかしらん。
あ、あとはあれか。
実はレギュラスが分霊箱ホークラックス全部破壊しちゃったとか。
うん。分霊箱ホークラックスなかったら、リリーの魔法に耐えらんなくなって消し炭になってもおかしくないはず……。
おお、あたし冴えてる!コ○ンばりの名推理!

自分の推理の素晴らしさに、思わず自画自賛しまくるあたし。
だからだろう。あたしは、



、早く前に出なさい!」



しばらくして呼ばれた、自身の名前に微塵も反応できなかった。



「へ?」
、早く行け!最初からスリザリン生が悪印象を与えてどうする!?」



や、あたしまだスリザリンだって決まった訳じゃないんだけど。
周囲の新入生の視線と、ドラコの促しがあまりに痛かったので、あたしは慌てて、壇上へ上がる。
途端に突き刺さる、視線、視線、視線。
……気持ち悪くなってきた。
人前があまり得意な方の人間じゃないので、それはもう冷や汗をびっしょりかきつつ、あたしは帽子に近づく。
は、早く終わって欲しい。
嗚呼、でも問答無用でレイブンクローとかに入れられるよりは、熟考してくれた方が……。
ハリーとかみたいにさ、そうしてくれたら希望言えるし。

もはや、祈るような気持ちであたしは古ぼけた帽子を手にし。
えいや、と被ろうとした瞬間。



「グリフィンドール!グリフィンドール!グリフィンドォオォール!!」



頭に帽子が触れる間もなく、帽子は狂ったようにグリフィンドールと連呼した。
な、なんだ、コイツ。
まるで、あたしに被られるのが嫌っていうか怖くて仕方がないかのように、叫んでいる。
遂に壊れたのだろうか。え、あたしのせいじゃないよね?
あたし普通のことしかしてないよね??



「え、ちょ……っ。もうちょい考えようよ!?」
「グリフィンドール!グリフィンドール!グリフィンドール!」
「あの……」
「グリフィンドール!グリフィンドール!グリフィンドールって言ったらグリフィンドォオォール!!」

「…………」



あたしは会話を諦めた。
さっぱり納得は言っていないが、マクゴナガル先生が唖然としながらも、あたしをグリフィンドールに促すものだから、
仕方がなしに、てくてくとグリフィンドール席に歩いて行く。
と、そこでは、同じように唖然とした面々があたしを迎えていた。
(ちなみに、その中にはあの双子の姿ももちろんあった)
何なんだ、一体。
あたしがそんなに怯えられる程の何をしたって言うんだよ。



「理不尽すぎる……」
「ええ、まったくね。貴女の時に丁度帽子の調子が悪くなるなんて、災難だわ」



と、あたしの一人言に、思わぬ返事が返ってきた。
驚いて隣りの席を見ると、勝気そうでしっかりとした少女があたしを見つめていた。
おおう。これはもしかしてもしかすると、本日何人目かの主要キャラクターか?



「えっと、君は……」
「わたしはハーマイオニー=グレンジャー。貴女と同じで組み分け帽子にグリフィンドールに選ばれたの。
私、レイブンクローにするかここにするかで随分と帽子に悩まれたのだけれど、ここに入れて良かったと思うわ。
だって、話に聞いた中では一番だったんですもの。
貴女も、きっとグリフィンドールに入れて良かったとその内思えるようになるわ」
「……えーと、あたしは。よろしく」



これが、とっても可愛いハーマイオニーとあたしの記念すべき初対面だった。
……ハーマイオニーって自分の意見押し付けなきゃ、普通に良い子なんだけどなー。
自分の言いたいことだけ言うのって、社会人ならともかくあんまりこの歳じゃ好かれないよねー。
とりあえず、彼女の対人スキルを上げるべく、あたしは会話を開始した。










友達100人できるかな!?
グリフィンドール新入生40人もいないけど!










......to be continued