Whimsy、2










崩れ往く。
崩れ逝く。

小さな世界は、オルゴールを奏でるのを止めた。
主人への手向けの音すら忘れたように。



 「もうそろそろかなァー。……僕は行くよ。じゃあね」



黒い髪の三蔵法師は、そう言って消えた。
壊れていく音すら気付かぬように。

その横を擦り抜けて、この城の主の元へと歩み寄る。
『カミサマ』と呼ばれた子供の処へ。



 「まだ、生きてる?」
 「……?」
 「負けちゃったのね」

 「うん。そうだね。負けちゃった」

 「……痛い?」
 「痛いよ。凄く、凄く、痛い」
 「そう」
 「僕、死んじゃうみたいなんだ」
 「『俺』で、良いわ」



綺麗な白い服は血で染まった。
紅く、あかく、アカク。
私の視界が貴方の色で染まっていく。



 「……先生は?」
 「行ったわ。戻ってなんか来ないだろうけど」
 「は?」
 「此処にいる」
 「どうして……?もう、籠はなくなるんだよ」



僕が死んだら、此処にいる意味なんてないんだよね?
僕が死んだら、此処に興味なんてないんだよね?

なら、良いじゃない。
オレなくなるしぬなら、此処に来なくても良いじゃんか。

酷いよ。は酷い。
俺は此処で、独りで、死ぬつもりなのに。
何で邪魔するんだよ。皆で、皆して。
俺はが逃げたと思ったのに。


彼は、そう言った。



 「……もう、逃げる時間、なくなっちゃうよ」



彼は微笑ワラって、言った。





 「知ってるわ」





だから、私は笑わないで言おう。



 「でも、勘違いしないでくれるかしら」
 「?」
 「私は狂っていない貴方に興味なんてない」





―――でも、どっちであっても貴方の事は大好きよ。





 「少なくとも、貴方が死んだら生きられないくらいにはね」



貴方の綺麗で綺麗で綺麗な笑顔が大好きです。
貴方の狂って狂って狂った言葉が大好きです。
貴方の壊れて壊れて壊れた意識が大好きです。
貴方の崩れて崩れて崩れた世界が大好きです。



 「死ぬの、怖くないの?」
 「怖いわよ?」
 「じゃあ、何で?」



―――彼の瞳は自分を見ているようでまるで見ていない。



そう、ずっとずっと思っていて、それが怖くて悔しくてたまらなかった。
けれど、彼は今、私を見ている。
もしかしたら初めてかもしれない、真っすぐな視線を浴びて、私は極上の笑みが浮かんでくるのが止められなかった。

そして、「心底分からない」と思っていそうな彼の耳元に唇を寄せる。



 「ガキのお守りは最後までやらなくちゃ」



コレが、私の最後の言葉。



 「やっぱり、俺のは狂ってるんだね」



ソレが、彼の最後の言葉。










瓦礫の山に人はなく。
廃墟の中に何もない。

壊れた場所には誰もいない……。











 ―作者のつぶやき♪―

ふむ。改めて見ても、やっぱり暗い。
このお話は15の御題【佇む】の続きですが、如何でしたでしょうか。
私には、原作のイメージを崩さないまま、彼を生かして幸せにする事は不可能でした。